第34話:調査と結果

 魔物出現が過去のダンジョンだった頃と関連ありと見た俺は、すぐにピーメイ村に戻り、事情を話して地下資料室に籠もった。


 所長も課長も心得たもので、資料探索に人手を貸したりしてくれた。

 鍵に閉じられた地下の資料室にあった、百年前の冒険者ギルドの資料は保管状態が良好で、情報は思ったよりも早く出そろった。


 当時のギルド職員がよく資料をまとめてくれていたこと。調べるのが第一階層という非常にメジャーな場所だったこと、その双方が良かったらしい。


 おかげで、ベテラン冒険者パーティーが来る頃には、方針がほぼ決まっていた。


 魔物調査探索のとりあえずの目標地点は温泉支部から見て北東。

 世界樹の樹皮が残っている端の場所に、かつては上へ移動する階段があった。


 上の階層に移動する場所には中枢、いわゆるボスと呼ばれる強力な魔物がいる。

 最後の記録と変わらなければ、第一階層のボスはクラウンリザードというトカゲ型魔物の群れだ。


 それはそれとして、もう一つわかったことがある。

 温泉は凄い。


「ほんと、ここの温泉は凄いな。なにか特殊なものが出てるんじゃないか?」

「正直、先輩の神痕のこともあるので否定できません」


 臨時ギルド受付の天幕内で俺はイーファとそんな話をしていた。現在は休憩中、二人しか職員は居ないから自然と食事も一緒になる。


 俺達は探索地図の最新版を見ながら再開した調査討伐について話していた。

 すでに連日、新しい印が北東方面に増えている。それ以外の地域でも魔物の報告がしっかりある。

 正直、俺の予想以上のペースだ。

 そんな中、話題に上がったのがあの温泉である。


「健康にいいのは知ってたけど、入った冒険者からの評判は良すぎるんだよな。なんか探索も早くなってる気がするし」

「ですよね。なんか皆さん温泉入るとすぐ元気になるからって物凄い勢いで働いてくれます」


 温泉の王なんて名乗る幻獣がいる温泉だからか、やたらと冒険者の調子良くなるのだ。

 俺とイーファも人手が足りなくて二度ほど討伐にいったけど、帰って温泉に入ると確かに疲れが吹き飛んだ。

 イーファがいうには前からこんなに強い効力は無かったはずだが、まさか土地の状況と相関関係でもあるんだろうか。


「このままの効能が持続するなら、ここは温泉郷にしちゃった方がいいんじゃないか?」

「きっとお客さんがいっぱいですね! 魔物も出るならここにギルドの建物を立てちゃいましょう!」

「一応、その魔物を減らすために仕事をしているんだが」

「そうでした……すいません」


 イーファの気持もわからなくもない。このまま魔物出現が続くなら本当にそうなりそうなのも事実だ。


「探索は順調。怪我人も大怪我はなし。良いことばかりだな」

「はい。私も冒険者の方に戦い方を教えて貰えてますし、王様も賑やかなのが嬉しそうです」


 温泉の王は意外と人好きらしく、よく野営地内で冒険者と話している。ちょっとした人気者だ。ちなみに魔女ラーズさんは全く出てこない。

 所長が人員手配してくれた癒し手は今のところピーメイ村に待機してもらっている。追加人員も来てくれたので、俺達も交代で休めている。

 状況が非常に良く整っているので俺はちょっとした満足感に浸っていた。


「この分だと、あと六日もあれば、第一階層の中枢だった場所に到達するな。一応、最初は様子見でお願いしてあるけれど」

「皆さん、慎重な方々ですから平気かと思いますよ?」

「そうだな」


 クラウンリザードは女王を中心とする群れの魔物だ。ちょっと手を出すと反応して数で押してくると記録にあった。結構厄介なので、ベテラン冒険者達だっていきなり手出ししないはず。世界樹特有の魔物で戦闘経験のあるものも国内にいないしな。


 発見後についての考えを巡らせると、イーファがにこやかに聞いてくる。


「先輩、ちょっと嬉しそうですね」


 言われて俺はあることに気づいた。


「元々予定されてた仕事と同じ事をしてるからだろうな」


 嬉しいはずだ、もう関わらないと思ってた仕事と似たようなことをしてるんだから。

 思ったよりも、引きずってたんだな、企画してたダンジョン攻略を持って行かれたこと。

 でも、今のこの状況は嫌いじゃない。周りにも恵まれている。


「とにかく、今は待ちだ。休憩が終わったら必要な物資を見直そう。多めにあった方がいいと思う」

「はい。先輩!」

 

 相変わらず元気の良い返事を聞いて、俺達は地図から目を離す。


 それから五日後、元中枢地点において、クラウンリザードの群れが確認された。


 こうして、過去を再現するかのような戦いが始まることが、確定になった。

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