第33話:サズの推測
所長から色々と聞いた後、温泉支部に戻り、元の仕事に戻った。とりあえずは目の前のことに集中しよう。手掛かりもないしな。
天幕内で地図を見ながら書類と格闘していると、イーファが近寄って聞いてきた。
「先輩、なにをしてるんですか?」
「探索再開の時、危険個体のいた場所以外にもなにか手がかりがないかを探せないかって、話だったよ」
「中枢を探すってことですね。やっぱり先輩達もボスがいるって思ってるんだ!」
ブラッディアがでたこともあり、殆どの人間が中枢の存在を疑っていない。イーファもその一人だ。
「いると仮定しておいた方がいいと思う。それなら、どこかなと思ってな」
「やっぱり、危険個体がいた森の向こうでしょうか?」
「俺の知る限りだと、危険個体の位置と中枢の位置はあまり関係がないことが多いんだよなぁ」
危険個体は気ままに動くことが多い。たまにがっつり中枢を守っていることもあるけれど。
「今回の調査討伐がどれくらいで終わるかも、この辺にかかってると思う。危険個体を退治して終わりでもいいんだけど」
「前はそれで終わったみたいですね」
十年前の魔物騒動は準危険個体を退治して終わったとされている。
その後、ダンジョンとしての特性は見つからなかったので、魔物の大量発生として処理されたのだ。
「うーん。わかりませんね。私から見れば、生まれ育った地域の見慣れた地図です。普段魔物がいなかったところが気になるくらいでしょうか」
「そうなんだよな。いきなり色んなところに魔物が発生してる感じで、法則性がないように見える」
魔物出現の印以外、地図には目立った場所がない。世界樹が崩壊した後、色々持ち去られ、年月がたって平原と森と荒れ地ばかりの地域になったわけだ。
ダンジョンだった頃と比べれば、大分変わったことだろう。
「…………そうか。ダンジョンだ」
「ふぇ?」
俺は地図に近づき、つぶさに観察する。魔物の出現地点にこれといった法則性は感じられない。何も無い平原にブラッディボアが出たりもしている。
でも、これはあくまで、今の地図上で見た場合だ。
「そもそも、この地域は世界樹ダンジョンの第一階層だったんだ。それ基準で魔物が発生してると仮定すれば、どうだ?」
問いかけに、しばらく考えてから、イーファが目を輝かせた。
「じゃあ、今現れてる魔物って、大昔のダンジョンの法則に沿ってるってことですか?」
「わからない。あくまで仮説だ。でも、調べてみる価値はあると思う。たしか、世界樹第二階層の入り口は今で言う北側にあったはずだ」
王国内で流通する、建国物語ではそうなっている。俺も孤児院で何度も読んだ。それだと、一階で出てくる中枢の魔物はトカゲ型の群れだったはず。
「たしか、世界樹ダンジョンは長く攻略されてたはずです。情勢が変わることもあったって聞いた気が……」
「正確で詳細な情報が必要だな。……なんとかなるかもしれない」
ピーメイ村に戻ってギルドの地下資料庫に入ればいい。所長も課長も許可をしてくれている。
時間がないから、課長に話して誰か手伝いも頼まないといけないな。
「イーファ、俺は村に戻って資料を調べるよ。所長がすぐに代わりの人を寄越してくれるはずだから」
俺とイーファは今も基本二人一組で行動している。いきなり別行動で平気だろうか?
一応、もう野営地は完成してるし、温泉の王もいるから大丈夫だと思うんだけど。
「はい。留守は任せて調べてきてください。先輩!」
そんな俺の懸念を吹き飛ばすような笑顔と共に、頼もしい言葉が返ってきた。
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