第26話:危険との遭遇

「それで、光の精霊が見えるようになったんだ」

「話が唐突な上に意味がわからん。それってどんなもんなんだ?」


 ピーメイ村の外にて、ゴウラ相手に俺は会話していた。一緒に居るのはイーファとゴウラの仲間二人だ。合計五人のパーティーで、俺達はピーメイ村の北東部を探索していた。


「こんな感じのことができる。光の精霊よ、明るくしてくれ」


 軽く手を掲げて言うと、手のひら丸い光が集まってきた。太陽の下でも明るさを感じる光量で、熱はあまり感じない。

 物言わぬ光球、これが光の精霊だ。厳密にはもっとも多い下位精霊というらしい。

 精霊は話しかけると、俺に答えて現れてくれる。日中なら光、夜なら闇といった具合に、上手くすれば色んな精霊を扱えるようになるそうだ。


「すごいです! ランプいらずじゃないですか!」

「まったくだ。ダンジョンの中とか夜とか、使い道が多いな。いつでもできるのか?」

「光の精霊がいるところなら、お願いすればやってくれるみたいだ。魔女さんは仲良くなればもっと色々できるといってたよ」


 仲良くなるともっと力を貸してくれるそうだけど、今の俺は便利な明かりくらいしか作れない。これだけでも、夜の仕事の燃料節約になるので馬鹿にできないんだけどな。


「お前はよくわからん奴だな。魔女から精霊魔法を教えてもらうなんて。普通は恐くて頼めないぞ」

「なんか、流れでできるようになっただけなんだよ。そもそも、実演して貰うまで使えなかったし」


 思い切ってラーズさんに相談したところ、光の精霊を実演してくれた。一度認識すると、『発見者』の力が働いたのか、光の精霊を見えるようになったのである。

 なんでも後天的な精霊魔法の使い手は精霊を見るコツを掴む必要があるそうで。手っ取り早いのは実演してもらうことだそうだ。


 ラーズさんはその辺のことを忘れていたらしい。それに、俺が『発見者』なんて神痕を持ってるから勝手に見つけるとも思ってたようだ。

 相談した時、神痕が弱まってることを知らなかったらしく、驚いた上に謝られた。


 『発見者』は情報が集まるほど色々と見つけられるようになる。今は光の精霊しか見えないが、そのうち火とか水とかも見えるようになるだろうとのことだった。


「しかしこうなるとギルド職員なのが勿体ないな。魔法なんて希少技能があるんだから、冒険者に戻ったらどうだ?」

「一度職員になっちゃうといきなり完全復帰は難しいんだよな。それに、今の立場が便利で結構楽しいのもある」


 事務処理とか面倒だし、冒険者に本格復帰するにも途中にしている仕事が多すぎる。


「あのあの、……先輩がいなくなっちゃうの嫌です」


 話を聞いていたイーファが、ぽつりと言った。 

 とても寂しそうだ。


「それに、こう言ってくれる後輩もいることだし」


 ゴウラはそれを見て笑っていた。


「そうだな。イーファにはお前の指導が必要だ。それで、そろそろだよな?」

「そのはずだけれど。静かなもんだな」


 今回、俺達が急遽出ることになったのは、魔物がいやに多く出る地区があって手が足りなくなったからである。応援の冒険者が来る前に状況を把握して、できれば対処しておきたいので、出撃となった。


 手元の地図には、俺が調べて怪しいと思った場所に印がついている。ここに魔物が多く発生している原因があるはずだ。

 ピーメイ村を北東に行った立派な森の中。この辺りはまさに鬱蒼、という言葉がぴったりの光景になっている。


「先輩の見立てですと、この辺りが怪しいんですよね。あまり報告のない地域ですが」

「過去の記録と照らし合わせると森で大物と遭遇したケースが多い。ブラックボアを中心に獣系の魔物がこの付近で多く目撃されてる。まだ森に入った冒険者は少ないから調べなきゃわからないんだが」

「どっちにしろ調べなきゃならねぇんだ。指針があるだけいいさ」


 そんな会話をしながら、俺達は本格的に森の中に入った。数日の探索を覚悟しており、荷物は多い。特にイーファは大きなリュックを背負っている。


 その日は見通しの良いところを野営地としてテントを設営。その後、周辺でブラックボアを二匹討伐した。



 そして次の日、キャンプを出発してすぐのことだ。

 正体のわからない獣道を、俺が発見した。

 木々の茂みをかき分けた痕についた足跡は、鹿のもの。だが、あまりにも大きい。

 恐らく、まだ目撃されていない魔物のものだ。

 慎重に痕跡を追っていくとと足跡がどんどん新しくなった。


「全員、警戒しろ。大物かもしれねぇ」


 ゴウラが大剣を構え、他の者もそれに習う。

 森の中の獣は、意外なほど上手く隠れている。奇襲されると大変だ。

 周囲を警戒して歩くことしばらく。

 最初に発見したのは俺だった。


「いた……。右の方だ。こっちに気づいてる」


 木々の向こうには大物がいた。

 黒い毛皮、紅い目、金属のような質感の角を持った巨大な鹿。

 特徴的なのは、体の周囲がゆらめいているように見えることだ。

 

 強力な魔物は、体内にもつ魔力の影響で体の周りの景色が揺らぐという。


「危険個体だ……。一匹のみ」


 危険個体、ダンジョン内に現れる特別な魔物。俺の記憶だと、鹿型のこの魔物はブラッディアと呼ばれていたはず。


「お前ら二人は援護だ。周囲も警戒しろ。俺とイーファが前に出る。サズは上手くやってくれ!」

「はいっす!」

「兄貴気を付けて!」


 素直にゴウラの仲間二人は弓を構える。イーファはバトルアックスを、俺は長剣と盾を準備。

 俺達の様子を見て、向こうも明らかに身構えた。


「来るぞ!」

「…………!」


 唸り声のようなものすらなく、危険個体、ブラッディアがこちらに突撃してきた。

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