第25話:王と魔女

 この辺りの事情についての有識者といえば温泉の王だ。

 なにせ幻獣だから俺達の見えないことまで見えている。長生きだから記録に残らないことも知っているだろう。


 そんなわけで、俺は非番の日に温泉の王のところを訪れた。


「よくぞ来た、サズよ。ちょうど魔女殿とお茶をしていたところだ。寛いでゆくがよい」

「こんにちはサズさん。お仕事忙しいですか? 少し疲れてるように見えるから、ハーブティーにしましょうね」


 なんか魔女ラーズさんがいて、お茶を淹れてくれた。

 近くに引っ越して来たらしいが、まさか普通に二人一緒とは。

 俺にとってはありがたい話だ。


「して、何用かな。この山奥に温泉に入りに来ただけというわけではないだろう?」

「温泉は後で入らせてもらえると嬉しいです。神痕が回復するので。お茶、いただきます」


 一口飲むと、口の中に香りが広がる美味しいハーブティーだった。御礼をいうと魔女ラーズは朗らかに笑った。

 ほんとに害のなさそうな人だな。

 だが、今日はこの魔女さんにもお願いがあるのだ。


「先に王様に聞きたいことがありまして。イーファのことです。彼女の両親と、神痕には関係が?」

「……やはり気になるかね。イーファの神痕が発現したのは七年前だ。彼女の両親が消えた少し後だな」

「やはり、そこになにか関係があるんですね?」

「明確なところはわからぬ。急に消えたというところだ。我も必死に探したが手がかりすらない……。神痕についても唐突で不明だ。なにか、関係はあるのだろうがな」

「イーファちゃんの御両親はなにしていたんですか?」


 魔女の素朴な疑問に温泉の王は頭、というか全身を振った。


「元冒険者で、世界樹について調査していた。イーファの神痕が発言する前に、なにか掴んだようであったが、わからぬ」

「資料なんか残ってないんですか?」

「ドレンが熱心に調べたが、確信に至るものはなかったそうだ。恐らく、重要な部分は肌身離さず持っていたのだろう」


 イーファがお父さんのノートという言葉を何度か言っていたと王は付け加えた。

 つまり、イーファの両親は世界樹について調べるため定住した冒険者で、何かを掴んだと言うことか。その証拠が、あの『怪力』の神痕ということになる。


「王様、今の世界樹についてどの程度詳細を把握しています?」

「其方とそれほど変わらぬ。我は世界樹より生まれしものだが、なにかを受け継いだ者ではないゆえにな。もし、そういった繋がりがあれば、イーファを悲しませずにすんだであろう」

 

 ぷるぷる無念に打ち震えながら、王が言った。


「そうがっかりするな。いくつかは推測がついている。我の管理する温泉は、世界樹崩壊後に湧き出たものだが、なにかしら事情があって特殊な効能がある。それとイーファの神痕だ。……おそらくだが、世界樹の根とでも呼ぶべきものが残っているのではないかと思っておる」

「根ですか……」


 世界樹も樹木だから根があるはず。そして根としてのダンジョンがまだあるのでは、という推測は何度か資料で見かけたことがある。


「知られた推測だが。我はもう一段考えた。恐らく、世界樹の根は我らの知る樹木とは形が違う。そも、世界樹も樹というには複雑な構造を持つダンジョンであったからな」

「あ、わたし聞いたことあります。自然に罠が発生したり、部屋ができたり、大変だったそうですねぇ」


 たしかに、ピーメイ村も不思議な事情で生まれた安全地帯が元だったという。


「そうすると、世界樹の根がなんらかの形で存在しているわけですか……」

「我らには見えない形でな。イーファも何らかの理由でその影響を受けたのだろう」


 世界樹の根、それを見つけ出せれば、この地域の秘密に迫れる。そうすれば、色々と変わる。ピーメイ村も、イーファも、自分も。温泉の効能では無く、ダンジョンの影響で神痕が活性化してるなら、根を見つければ元の力が戻るかもしれない。

 そうすれば、自分の人生も少し変わる。孤児院も助けられるだろう。

 それは、悪くない未来だ。


「サズ君の能力に期待ですねぇ。それで、わたしにも用があるように見えたんですが?」


 魔女ラーズが問いかけてきた。王様に俺の神痕のことを聞いてるみたいだが、まあ、いいか。

 俺は魔女に頼みをするつもりで来たのだ。


「精霊魔法を使えるようになったらしいですが、全然わかりません。教えてください」


 魔女の祝福を受けてから数日たつが、精霊なんてこれっぽっちも見えていないのだった。俺は本当に『発見者』の神痕を持っているのだろうか。

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