第24話:イーファの特訓
いつもは俺とイーファだけのギルドの中庭訓練所も賑やかだ。そこかしこで冒険者達が武具の手入れをしたり、練習したり、食事していたりする。
そんな場所の隅の方に俺はいた。
目の前には、棍棒を持ったイーファとゴウラ。彼は結局、村の護衛から魔物調査討伐に依頼が切り替わり、滞在延長となった。
「なんで俺がイーファに武器の使い方を教えなきゃいけねぇんだ。お前の方がそういうの得意そうじゃねぇか」
声をかけたら時間があるとのことだったので、イーファの訓練をお願いしたという流れである。
「でかい得物を使った戦い方は知識はあっても経験がないんだよ。ゴウラの方が実戦向きな教え方をできるよ」
俺がゴウラに対して砕けた態度なのは、向こうの要望だ。敬語で挨拶したら、普段はそれはやめろと言われた。仲良くなれたと思っておこう。
俺とイーファもいつ出撃の依頼が来るかわからない、それに供えての訓練だ。特にイーファは強力な神痕をもっている。強くなってもらうにこしたことはない。
「そうは言ってもな。イーファなら適当に振り回してればいいんじゃねぇか?」
「それは嫌です! どうせならかっこよく戦いたいのですっ」
棍棒を持ちながらイーファが断言した。実は、練習で棍棒を使うのもちょっと難色を示した。本人的にはまだちょっと剣に未練がある模様。
「当面、イーファの武器はバトルアックスになるわけだし、それを生かした戦い方を覚えておいて損はないだろ」
「うう、わかってますけど。ちゃんと剣も教えてくださいね」
俺は頷く。イーファとの約束で平行して剣の扱いも教えることになっている。現状、彼女の怪力に耐えきれる武器は斧しかないのだが、将来的に良い剣が手に入れば役立つはずだ。
「棍棒と斧もちょっと違うんだが。まあいいか、立ち回りなんかを教えてやるよ。イーファが強けりゃ俺達も助かるからな」
「ええっ、そうなんですか?」
「魔物相手なら一番頼りになるのはイーファだからな。多分、ギルドの秘密兵器だぞ」
「秘密兵器、なんかかっこいい……」
うっとりするイーファ。そういうのに憧れがあるんだろうか。物語が好きだし。
「話もまとまったし、早速やるか。いいか、練習中に神痕の力を入れすぎるんじゃねぇぞ」
「平気です! 神痕の制御には自信があります!」
そういって、イーファとゴウラは棍棒での訓練を開始した。
訓練は本当に大物の振り方と防御の仕方だ。動き方をゴウラが細かく実演しながら教えている。たまに棍棒同士が打ち合う音を響かせつつ、イーファは指導を懸命に受けていた。
ゴウラはやはり面倒見が良い。イーファの動きについて、逐一説明してくれる。
俺はそれをじっと観察するだけだ。
イーファの神痕は不思議だ。
神痕は使うと身体能力が増強するが、あまりにも効果が極端に見える。
武器の強化までしているし、殆ど神痕を使わない環境にいたイーファがそう簡単にここまで使いこなせるものだろうか。
冒険者時代の知り合いは武具にまで神痕の力を通すのに相当苦労していた。しかし、イーファにはそういった気配がない。
基本、大きな迷宮で得られる神痕ほど強い。弱い神痕の持ち主が、強いダンジョンに入って急に力を強めたりもする。
イーファはそんな環境にいない。ピーメイ村に関してもそれほど危険じゃない。
彼女の神痕は本当にただの『怪力』なんだろうか?
「おい、聞こえてるのか、サズ」
考え込んでると、ゴウラがこっちを見ていた。すでに汗だくだ。
「悪い。考え事をしていて」
「職員だから色々あるんだろうが、今はこっちに集中してくれ。悪いが交代してくれ、盾持って素速く動く役だ。イーファは細かい攻撃が苦手でな」
早くもイーファの癖を掴んだらしい。さすがだ。まあ、イーファはこれまで牽制もなにもなく、魔物を一撃だったろうから、細かい動きは苦手だろう。武器が急に変わったことも大きい。
「わかった。俺が変わろう。そこの水、飲んでくれ」
頷いて水を飲み始めたゴウラと交代した俺は、ラウンドシールドと練習用の剣を持つ。
「先輩、宜しくお願いします!」
「手加減だけは絶対に頼むぞ」
気を引き締めて盾を構える。考え事は後にしよう。イーファの方はゴウラと同じく汗はかいているがまだまだ元気そうだ。もしかしたら、体力まで増えているのかもしれない。
これもまた、温泉の王か魔女ラーズさんに聞く案件だな。
そう思いながら、俺はイーファとの訓練を開始した。
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