第16話:仕事を終えて
俺達はコブメイ村に無事に帰還した。
ゴウラの仲間二人は結構傷が深い。村の人と薬草で治療したけど、町まで送って『癒し手』を持つ冒険者に頼むことになった。
治療を終えた二人を宿の部屋においた俺達は、とりあえず酒場に向かった。
「二人とも。今回は世話になった。ありがとう」
食事と飲み物を前に、頭を下げるゴウラ。依頼前と違って、少し余裕があるからか、表情が柔らかい。
「い、いえ。私は先輩の言うとおりに動いただけですし」
「気にしないでください。ちょっと気になっただけですから」
「それだ。なんで俺達の様子を見にいこうと思った」
真面目な顔で聞かれた。
イーファもそういえば、と不思議顔。
そうだな、説明しておくか。
「俺はこっちに来て以来、時間があればギルドの記録を見ていましてね」
ピーメイ村に来てから時間に余裕があった。そこで俺は、地域の特性を把握するため、過去の記録を隙あらば見ている。
それによると、ピーメイ村の領域内で魔物が出た時は、周辺で魔物の出没数が増えることが多い。
特に、コブメイ村は近いだけあってその影響が顕著だ。その上、魔物が思ったより多く出現するパターンが結構あった。
「凄いです! まだ来てから一月もたってないのにそんなことを把握してたなんて」
「夜、やることないから読んでて、たまたま気づいたんだ。それに、こういう予想は当たらない可能性の方が高い」
イーファは褒めすぎである。なんか照れるので頭をかいて誤魔化しておく。
「今回はそれに助けられた。誇っていい。しかし、今の話からすると、ピーメイ村に魔物が現れたことになるが」
「はい。つい先日遭遇しました。まだ町の冒険者ギルドに報告してないんで、今回の依頼も警戒されなかったんじゃないかと思いまして」
情報の伝達速度に難があるのは仕方ない。ゴウラ達は知らずに危険度の上がった依頼に乗り込んでしまったわけだ。
「あの、先輩。ゴウラさんだからこそ危ないって言ったのは?」
「ゴウラさんはベテランの冒険者だが、残りの二人はそうは見えなかった。想定より数が多ければ、味方を守って苦戦するかなって。一人なら切り抜けられたんじゃないですか?」
「……まあな。だが、あいつらを見捨てる選択はない」
エールを飲みながら、ゴウラは強く断言した。責任感あるなぁ、この人。
「でしょうね。貴方は真面目な人だ。あの時も、一人だけ酒を飲んでいなかった」
「おぉ……」
イーファがなんか尊敬の眼差しで見ている。やめて欲しい、多分、ほとんど『発見者』の神痕のおかげなんだから。
ゴウラも感心した様子でこちらを見ていた。
「サズと言ったか。なんで冒険者をやめたんだ? それだけ見えるなら、相当までいけただろう?」
「色々と事情がありまして。ゴウラさんもそうでしょ?」
ゴウラだってそれなりの冒険者だ。わざわざ山奥でゴブリン退治をしなくてもやっていけたろうに。
「……俺は神痕を上手く使いこなせなかっただけだ。それで、故郷に出戻りさ」
自嘲気味に言うゴウラ。たしかに、神痕を使いこなすのはそれぞれコツがある。俺とイーファはそこそこ上手くやっているが、それが難しい人もいる。
「あ、あの。それも先輩なら何かわかるんじゃないんですか?」
「いや、神痕は個人によって結構違うから。自分でコツを掴むしかないんだよ」
「……だろうな。皆に言われたよ」
ゴウラが苦労を偲ばせる笑みを浮かべながら言った。この人も、色々とあったんだろう
「そうだ。俺には助言は無理ですけど。イーファの今の保護者、知ってます?」
「……一応な。仕事で挨拶したことがある」
微妙な顔だ。幻獣と言われて、戸惑ったパターンかな、これは。
「あの人、長生きで、沢山冒険者や神痕を見てるから、何か教えてくれるかもしれませんよ」
幻獣は長生きなので博識な上、俺達にはない感覚を持っている。もしかしたら、なにかアドバイスしてくれるかもしれない。
「今度、ピーメイ村に行ったら会いに行こう。今は先にあいつらの治療だな」
穏やかな顔で言うゴウラ。顔はいかついけど、面倒見のいい人だ。そうでなきゃ、イーファが懐いていないだろう。
「あの、ゴブリンの群れ、どうするんですか?」
「多分、あれで全部のはずだ。今度確認にいく必要はあるだろうけどね」
「そうだろうな。俺が見つけた巣の規模的に、あれくらいで限界だろう。念のため、町のギルドに頼んで再調査は必要だな。ところで、今回の報酬はどうなるんだ?」
おっと、ここからはギルド職員の仕事だな。
「最初の依頼と数が変わったわけですから、再計算になります。その辺のことをまとめた報告書を準備しますので、町のギルドに渡して貰えれば。……すいません、俺達が直接行ければいいんですが」
「ピーメイ村の職員兼冒険者がいつまでも留守にしてるわけにいかねぇってことだな。わかった」
男らしい良い笑顔でゴウラが受けつつ、更に話を続ける。
「礼代わりといっちゃなんだが、好きなもんを頼んでくれ。俺のおごりだ。イーファも遠慮しないでいいぞ」
「やったぁ! ゴウラさん、ごちそうさまです!!」
「毎回おごってもらってすいません」
凄く嬉しそうなイーファの横で、俺も礼を言う。
この後、イーファはデザートまで頼んで、俺達が呆れるほど食べた。
○○○
翌日、予定外の仕事を終えた俺達は、一日遅れでピーメイ村への帰路についた。まあ、課長達には上手く説明できるだろう。報告書も作成して、ゴウラに渡した。俺とイーファのサインがあれば、町のギルドも対応してくれるはずだ。
ゴウラは怪我をした仲間を連れて、馬車で朝一番に出発した。
朝一番は俺達も同じだ。山の間から顔を出したばかりの太陽の光を受けながら、今度は食糧や雑貨を詰めたリュックを背負って、俺達は歩き出す。
上機嫌のイーファが言う。
「先輩、ゴウラさん達とも仲良くなれて良かったですねっ」
その笑顔に、俺は頷く。
「ああ、仕事として、悪くない滑り出しだな」
俺達は、今回の事件と帰ってからの仕事について、楽しく話ながらピーメイ村に帰るのだった。
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