第15話:となり村でおきたこと

 イーファがコブメイ村でも顔が利くおかげで、ゴウラ達の依頼内容はすぐにわかった。ここから更に離れた町のギルドに依頼があり、コブメイ村に詳しい彼らが来ることになったとのこと。

 

 内容は山の果樹園近くのゴブリン討伐。最近見かけるようになったので、巣があるなら確認、可能なら殲滅とのことだ。


 彼らは既にゴブリンの巣を特定している。殲滅するつもりだ。彼らの戦法は朝早く日が昇ってからのゴブリン退治。太陽を嫌う魔物相手の正攻法を選んだ。


 ゴウラ達が出発してすぐ、俺とイーファも準備を整えて宿の外にいた。いつもの装備に水と食糧。それと今日は近くで借りた弓矢も準備している。 


「調べた上に、弓矢まで借りちゃって、どうするんです?」

「念のため、見学に行こう」


 そういうとイーファが怪訝な顔をした。


「あの二人はともかく、ゴウラさんは凄腕ですよ? 私なんかじゃ全然勝てないくらいです」

「だから心配なんだ。案内を頼む」


 いまいち納得してないようだが、イーファは素直に案内してくれた。新人だけど、山歩きになれているし、神痕も使えるのでとても頼もしい。


 ゴブリンの巣はゴウラから聞いたとおり、山の中腹くらいにある果樹園から少し離れ岩場にあった。村から歩いて半日もかからない。その気になればコブメイ村を襲える危険な場所だ。


「痕跡を見つけた。人間の足跡だ。ゴブリンのもあるな……。新しい」

「もう見つけたんですか? たしかに、何かが通った痕に見えますけど」

「こういうの、得意なんだ」


 『発見者』のおかげで、すぐにゴウラ達の歩いた痕が見つかった。この神痕は肉体強化こそ弱めだけど、こういったことに滅法強い。温泉のおかげで力が少し戻った今なら、痕跡を見つけるくらい簡単だ。


 それと、俺とイーファという組み合わせも悪くない。俺が細かいことをやって、戦闘では彼女が切り札になる。これで『癒し手』の神痕を持っている冒険者でもいれば、相当いいパーティになるんじゃないだろうか。


 ……まさか、そこまで考えての左遷じゃああるまい。


「イーファ、こっちだ。念のため武器をすぐ使えるようにな」

「は、はい!」


 イーファが腰の長剣を確認したのを見つつ、俺が前になって岩場を進んでいく。


 目的の存在はすぐに発見できた。

 俺達は岩陰から様子を見る。


「……声を出すなよ」

「……っ! 早く助けないと!」


 焦りつつも小声のイーファ。上出来だ。


「あんまり良くないな」


 ゴウラ達は苦戦していた。すでに手傷を負っている。見れば、仲間のうちの一人、小さい方は武器を手にうずくまり、大男も傷を負っていた。


 ゴウラの武器は幅広の長剣。もう少し大きければ大剣とも呼べそうな逸品だ。それを手に、十匹以上のゴブリンと対峙している。

 対してゴブリン達はつかず離れず、じっくりと料理するようにゴウラ達を攻めている。


 ゴブリン。薄緑色の肌、頭から小さな角の生えた小柄な人型の魔物。力は強くないが、狡猾で、数が多い。今回は巣に乗り込んできたところを罠と待ち伏せで弱い冒険者二人を狙い、ゴウラの動きを封じたんだろう。

 いっそ、ゴウラ一人だった方が上手くやれたかもしれない。残りの二人には申し訳ないが、足手まといだ。


「助けに入る。作戦……というほどじゃないが、説明するよ」

「今の一瞬で作戦まで考えたんですか?」

「大体見たからな。有り難いことに、奴らは弓矢を持ってない」


 俺は背負った弓矢を用意しつつ、イーファに考えを話す。


「俺が弓で牽制と援護をする。イーファは突っ込んで、ゴウラと一緒に戦ってくれ」

「それだけ、ですか?」

「ゴウラが苦戦しているのは仲間を庇ってるからだ。援護があればいける。俺の盾も使ってくれ」


 持って来た小型のラウンドシールドをイーファに渡し、俺は弓に矢をつがえる。弓は久しぶりだが、何とかなるだろう。昔はよく使っていた。前に立ちにくい神痕だと、自然と援護が得意になるものだ。


 イーファは緊張の面持ちで盾と剣を持ち、駆け出す準備を完了。


「行け!」

「はい!」


 合図と共にイーファが飛び出す。


「やああああ!」


 声を出しての突撃にゴブリン達が反応する。自分から注目を集めたな。良い仕事ではあるが、そこまでしなくていいのに。


 一瞬慌てたが、俺は呼吸を一つ置いて、落ちついて矢を放つ。

 とりあえず、ゴウラ近くにいる慌てて止まったゴブリンに矢が突き立った。良い感じだ。


「っ! イーファ! どうして!」

「助けに来ました!」


 物凄い勢いで突撃して、ゴブリンを叩き切りながら叫ぶイーファ。いつ見ても凄い。ゴブリンの武器ごと両断している。それを見てゴブリン達が怯え始めた。よし、いいぞ。


 チャンスとばかりに次々と矢を射る。戦場を見渡すのは得意だ。足とか肩とかに当てるだけで、奴らは動きが止まる。ゴブリンは臆病なので、少しの怪我や劣勢で恐慌状態になる。


「なるほど。あいつが援護してるのか」

「はい! 先輩の指示です!」


 ゴウラとイーファが負傷者を囲む形で状況を立て直す。二人なら上手い具合に引き付けて、俺の方にゴブリンが来るのを防いでくれる。

 

 巣の方にまだいたのか、ゴブリンも追加できた。どんどん増えるが、こちらが倒す速度の方が早い。ゴブリンの死体はあっという間に十をこえた。


「ああ! 剣が!」


 あと少し、というところでイーファの叫びが響いた。

 勢い余って近くの岩に剣が刺さって曲がっていた。慌てて近くのゴブリンを盾で殴りつけるイーファ。しっかり『怪力』が発動していたのでゴブリンは顔が酷いことになって絶命。……下手に武器を使うより強いのでは。


「イーファ! これを使え!」


 仲間を守っていたゴウラが、手斧を投げ渡す。恐らく、先に戦闘不能になった小さい奴の武器だろう。


「やあああ!」


 イーファの振り下ろした手斧が、ゴブリンの棍棒をへし折り、そのまま頭をかち割った。強い。


「と、矢が切れそうだな」


 矢が切れかけたし、乱戦になって狙いにくくなった。仕方ないので俺も長剣を抜いて戦いに加わろう。

 

 戦場に飛び出しすとゴウラの鋭い声が飛んできた。


「お前、なんで出てきた!」

「矢が殆どない! ここでこのまま殲滅しよう!」


 情勢はすでに矢の援護を必要としていない。このまま力押しで勝てる。

 

 そんな確信と共にゴウラ達と剣を振って十数分後、ゴブリン達は壊滅した。

 

「はぁ……はぁっ……やりました」


 手斧と盾を手に大暴れしたイーファは肩で息をしている。疲れただろう。こんな本格的な戦闘は初めてのはずだ。

 

「まずは手当だな。怪我を見せてくれ。毒はないか?」


 俺はゴウラの近くに聞いた。ゴブリンは刃に毒を塗ることがあって、非常に危険だ。軽傷のゴウラは首を横に振る。


「毒はないが、あいつらの傷が深い。これ以上先に進むのは無理だな」

「一度村に戻ろう。それに、ゴブリンは他にはいないんじゃないかな。多分」


 ゴウラの仲間、大男の方も途中で怪我をして動けなくなっていた。戦線離脱が二人もいては、先に進めない。巣の殲滅確認は後日にしよう。


 そんな俺の言葉に反対する者はいなかったので、一時撤退となった。

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