#02 襲京の自由
先日、政府から襲京の自由が保障された。
私は行かないけれど、友人はここ数年ずっと襲京の解禁を待っていたので、彼女はふかふかのお布団を持っていそいそとネオ東京へ向かっていった。
思い返せば、私が小さい頃には既に東京は全てが揃った完全都市として崇拝の対象になっていたし、聖地に住むために引っ越して行った子もちらほらいた気がする。
対して、私は東京崇拝からも給食の時間からも取り残され、昼休みに外でドッジボールをする級友を教室の窓から見ながら、苦手な牛乳と対峙していた。時間が経つほどぬるくなって、相手の攻撃力のみが上がり続ける負け戦。全て待ってほしい。
私が田舎で呑気に生きている間に、東京は物理的に足の踏み場がなくなったらしい。もう本当にどれだけ詰めても入らなくなって、隣県の千葉とか埼玉に、県境を越えて片足だけ飛び出しちゃう人も出てきたと聞いた。なんでそこまで放置するん?
ちょっと飛び出しちゃった人たちはどんな顔をしてたんだろう。自分が飛び出している状況にフフフ…って照れてそう。ほんわか地帯であってほしい。
ただの木の枝や石ころでも、多くの思いや信心を集めると神格化される。
私は、神とか不思議の力とか、そういうものを感じたり見たことがないから適当なことは言えないけれど、神格化されたものはもう「モノ」ではなくなるのかもしれない。それこそ人格ならぬ神格を得て、自我を持つことがあるのだと思う。
厳密に言えば、私はそういう超自然的なものを身近で感じたことがないだけで、生命体じゃないものが神格化されて自我を持つということ自体は疑っていない、というか分かってはいる。私にとってネオ東京が身近じゃないというだけである。
機会があれば観光したいなとは思うけれども、襲京をしようとまでは思わない。体力の消費が凄そうだし、何よりネオ東京への信仰心がないから、ネオ東京側が入れてくれない。悔しい。
私が信仰しているのは自分自身くらいだ。今日も生きてる自分が一番すごい。
人が押し寄せて県境で片足が出ちゃう人が発生するくらい信仰を集めすぎた東京は、去年あたりから遂に自我を持った「ネオ東京」になった。「東京」なんて呼んだらネオ東京信者から怒られてしまう。でも、その呼称が受け入れられないくらい、都市が自我を持つというのは衝撃的だった。
現在進行形で、多分この世で一番意味のわからないものがネオ東京だから、自我を持ったのが去年かどうかすら怪しい。
日曜の昼とかにあってる討論番組で「ネオ東京はいつから自我を持ってたのか?」みたいな話をしていることがあるけど、ネオ東京は喋らないからわからない。
神だから「いや〜!これ今、たった今自我芽生えましたわ!」とかの感覚があるんだろうか?いつかコミュニケーションが取れる日が来たら囲み取材とかしたい。「自我の芽生えって感じられましたか!?」などとワーワー言いたい。
自我が芽生えたらしいネオ東京は、いつの間にか自我をスクスクと育んで、都内に押しかけていた群衆をナイナイした。品川駅あたりから生まれた、人を立ち入らせないミニ結界は4~5日で東京都をすっぽり覆ってしまった。仕事の早い神だ。自分の中にたくさん人がいて気分が悪かったのかもしれない。腹十二分目くらいの気持ちだったのかな。ウップとなる。
私はネオ東京に詳しくないし、路線図なんてあやとりの最終形態にしか見えないのでイメージはつきにくいけれど、都内の鉄道の路線に沿って見えない壁みたいなのがあるそうだ。
それこそ、東京の複雑な路線図を見てると、もはや神が遊んだあやとりじゃんと思う。人間すごいし、ネオ東京も路線図見てキャッキャしてそう。ネオ東京を赤ちゃんと思ってる節がある。
神と人間との間に先輩後輩関係とか生まれるのかな。あるとしたら、私の方が結構先輩なので赤ちゃん扱いも許して欲しい。
ネオ東京が生まれて以来、よくわからないことや考えることが多くあったから、襲京の解禁を機に、ここで書いて整理できてよかった。ネオ東京についての有益な情報はないけれど、私がネオ東京を信仰していないということだけはわかる。
友人が割と熱心なネオ東京信者で、結界が作られて以来ずっと熱を持て余していて日に日に声がデカくなっていたから、襲京の解禁は私にとっても彼女にとってもありがたいことだった。会う度に「元気〜?^^」と2兆デシベルくらいで言われるのはやや大変だったし、彼女の耳にも悪い。
ストレスが溜まるとカラオケとかで大きい声出したくなるけど、常態化することもあると学んだ。
東京がネオ東京になって割と経つけど、確かにこのまま多くの人が東京に入れないのは不便だし、いかんせん東京は便利な都市なので、ネオ東京から東京を取り戻そうというムーブに最近なってるらしい。
確かに、ネオ東京信者じゃない人も東京を使いたいというか、信仰関係なく東京に住みたい人は一定数いるだろうし、相当困っている人も多いんだと思う。
でも結界とかは完全に超自然的なもので、人間がどうにかできるような代物でもないから難しそうではある。一番有効な手段としては神格を奪うことだそう。
ネオ東京は大規模な宗教で信者の人数を減らすのは大変だから、「東京なんて普通の都市だぞ!!!!」とネオ東京に示すことで、ネオ東京の肯定感を下げて力を弱めよう!という算段でネオ東京と戦うのが襲京らしい。
なんか知らんけど、そんなに上手くいくのかという気持ちと、面白そうという気持ちが葛藤している。不要な葛藤。
信者の反対で襲京はずっと禁じられてきて、襲京の可能性を限りなく0にするために、信者もネオ東京に立ち寄ることができなかった。友人が飛行機くらいの音量で話し始めたのもこれが原因だと思う。信者の中でも一部の人間はネオ東京側が認めている儀礼をして密かに上京しているらしく、信者間の格差も悔しさの原因の1つかもしれない。友人専門家。
とにかく、政府の人とかがきっと困って襲京の自由を保障したから、ネオ信者もそうでない人もまた東京周辺に押しかけるのだと思う。
ネオ東京に対する敵意があったり、信心がない人をネオ東京は受け入れないから、友人は信者必携のふかふかお布団を持って爆速で東京に向かった。私もここぞとばかりに「いってらっしゃい!!!!!」と飛行機くらいの音量で送り出した。
結界内で敵意なく、愛を持ってふかふかお布団でリラックスして眠るのが、ネオ東京への信仰を表す儀式だという。彼女も久しぶりにまったりとできているといいな。
信者が結界内でぬくぬくと捧げる信仰心と、結界の外でネオ東京の肯定感を下げようとする熱意、圧倒的ホコタテだけどどうなるんだろう。
色々落ち着いたら私もネオ東京に「お前は私の後輩なんだからな!」とか言いにいこうと思う。でもネオ東京に関しては全くのニュートラルな気持ちだからやめとこう。冷やかしは良くない。
とりあえず、私はこの家に特に敵意も信仰もないし、家側も「ネオ・私の家」になっていないので今日も自室のベッドでぬくぬくと眠る。グッドナイト混沌世界。
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