第7話

 クラウンは両手を上げて、肩をすくめた。

「おめでとう、あなたの勝ちよ。そう、それが発想の飛躍、夢、希望、野心。限界を超えたところに、隠されたカードがまだあるはず」


「それじゃあ、今の状況を打開する方法がまだある?」

「それはもう予測の範疇を超えることだから、私にもわからない。今こそ、君の切り札を出すときが訪れたんじゃない」

「僕の切り札は……」


「さあ、アイドリングは済んだかな? 現実を走り出す時がきたわ」

 クラウンがトランプの束を空中に投げ出すと、カードは連なり一枚の大きな扉に変化した。

「その扉の先に、君の新たな挑戦が待っている」


 僕は扉を開けると、クラウンに尋ねた。

「ありがとう、でもどうして僕を助ける?」

「私は君であり、君は私、大切な存在だからよ。これからもずっと近くにいる」

「どうしてもやっておきたいことがある。それは葉子さんに僕の想いをぶつけること」

 扉の先の黒い空間に、足を一歩踏み出した。


 次の瞬間、僕の頭上に鉄骨が落ちてくる情景が再現された。

「僕の切り札は……脚力!」


 全神経と重心をつま先に集中し、葉子さんに向かって走り出した。

 ――走れ、能力の限界フィールドを突破しろ!

 硬直した状態の葉子さんの腹部を抱きかかえると、路面を思い切り蹴り上げた。

 ――跳べ、弱気の障害ハードルを飛び越えろ!


 僕は宙に舞い上がった。顔に当たる風の涼しさが、やけに気持ちいい。翼を広げた鳥になったような感覚を覚えた。

 路面に着地した瞬間、背後でけたたましい衝撃音が聞こえ、地面が揺れた。

 後ろを振り向くと、遠くのほうに鉄骨が歩道に埋まっているのが見えた。八メートルくらい飛んだのだろうか。自分でも信じられないほどの跳躍だった。

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