第3話

 カードを空中にばら撒くと四列に並んで浮遊し、その中に様々な情景が描かれていた。

「鉄骨が落ちて二人とも死んでしまう未来、一人で逃げて彼女だけ下敷きになる未来、彼女を助けようとして犠牲になる未来。その他すべてで五十二枚のカードがある」


「五十二枚……トランプみたいに?」

「そう、あなたの頭の中に描かれたカードの枚数」

 よく見ると、それぞれのカードにはスペード、クローバー、ダイヤ、ハートの記号が振られていた。

「それぞれの記号は勇気、知恵、決意、感情を表している。あらゆるカードを組み合わせて導き出した五十二通りのアクションプラン。さて、あなたはどのカードを選ぶ?」


 そこに浮かぶ情景はどれも悲惨なもので、救いようのないものばかりだった。

「これが僕に起こる未来? どれと言われても、ひどいものばかりじゃないか! この中から選ばないといけないのか? 例えば、その……過去に巻き戻るとか、そういうカードはないの?」


 クラウンはポーンとボールを上に投げると、落ちてきたボールをバランスよく鼻の上に乗せた。

「ここは現実空間よ? 時間は常に前に進む、後戻りなどできない。自由落下の法則に基づき、鉄骨は落ちてくる。ファンタジーみたいな奇跡は起こらないわ」


 告白どころではなくなった、この絶体絶命の瞬間から抜け出す方法はないのだろうか。

「だいぶお悩みのようね。そうねえ、ひとつだけ手があるわ」

 クラウンは人差し指を口元に寄せると、ニヤリと流し目を僕に向けた。


「どうすればいい? 教えてくれ!」

「この世界を統べる絶対の権力者である私に、ゲームで勝つこと。それができれば、もしかしたら可能性はあるかもしれない」

「どんなゲームに勝てばいいんだ? まさか漫画によくある……デスゲームみたいな?」

「そんな大それたものじゃないよ。君が一番得意だと思っていること」

 

 僕が一番得意なこと――それは脳筋だった僕が葉子さんに教えてもらい、今では逆にハマってしまったあのゲーム。

「……ポーカー?」

「そう、ポーカーで私に勝てるかしら? チャンスはたったの一回」

「勝つ自信はないけど……努力するしかない」

「君はいつもそんな感じね。最初から勝つイメージを持っていない。負けたときの言い訳ばかり考えている。やっぱりだめだった、僕はもう終わりだって」

「え? 僕のことがわかるの?」

 ふふと怪しげにクラウンが笑う。

「当たり前じゃない、ポーカーは心理ゲームよ。君がどんな人間か知っているからこそ、このゲームを選んだのよ」

「それじゃあ、やっぱり勝ち目はないということ?」

「だからこそ、万が一にも勝つことができれば可能性はあるかもね、ということ」

「他の選択肢は?」

「ないわ」


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