第2話

 次の瞬間、僕は何もない白い空間に佇んでいた。辺りを見回すと、一人の少女が立っているのが見えた。

「ようこそ、エスタブリッシュワールド確立世界へ」

 顔をペイントした道化師の恰好をした少女が、帽子についたポンポンを揺らしながら、ゆっくりとお辞儀をした。


 僕は一瞬何が起きたのか想像ができなかったが、これまでにあったことを思い出してみる。

「たしかクレーンから鉄骨が落ちてきて……あの、ここは何処ですか?」

「おざなりな質問ね。次は『ひょっとして僕は死んだのですか?』とでも聞くつもり?」

 片手でくるくると三つのボールを転がすと、クスリと僕に微笑みかけた。


「そ、そうですね。天国に来てしまった?」

「残念、違うね。天国に行くもう少し手前。あなたは今この後どうするべきか、岐路に立たされている。あなたの脳内で瞬間的に超高速演算が走っている状態。ほら見て、ここでは光すらスローモーションに見えるわ」

 彼女が手をかざすほうに目をやると、青い光がゆっくりと動いているのが見えた。


「今度は『あなたは誰なんですか?』でしょ? ここではすべての未来が予測できる。行動のすべては予測に基づいて体が反応しているから。そして私はこう答える。『私はクラウン、ただゲームを楽しんでいるだけ』とね」

「ゲームを楽しむ?」


「そう、この確立された領域に没入できる人間はなかなかいないからね。面白そうだから、これから起こるあらゆる事象をシミュレーションしてみたの」

 彼女が手を前に出すと、手品のようにカードデッキが手の平から現れた。

「あなたはどのカードを選ぶのかしら?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る