第9話「シナリオクエストの鬼門」
私は緊張していました。現在担当しているユーザーさんの『マッスルマン』様と中盤のクエストをこなすことになっているからです。何故そんなに緊張しているのか? それはマッスルマン様にもすぐに理解出来ることでしょう。
『負けてしまいました~……』
私はクエストに入ってすぐに敗北を告げることになりました。そうです、ここから敵が急に強くなるのです! いい感じにユーザーさんがゲームにはまってきた頃に絶望にたたき落とす、それがこの四章の役目となっています。質が悪いのは敵が初期から素早さバフがかかっていて初手で全体攻撃を放ってくることです。しばらく耐えていればバフも消えるのですが、並のキャラでは一撃で落とされリトライしても初手を取られ……とループになります。
要するに勝ちたければ初手に耐えられるように耐久の高いSSRを用意しろと運営が暗に言っているわけですね、えげつない話です。運営がお金を稼ぐ必要があるというのは、それ自体は理解出来ることなのですが、矢面に立たされる私の身にもなって欲しいです。今でさえイライラと画面中をタップされています。いらだちが分かるほどリズミカルにポチポチポチポチとタイミング良くタップなさっています。音ゲーだったらさぞやスコアが出たことでしょう。
ああ、私にあたる指が痛いですねえ……ユーザー様の貴重なお時間を割いてもらって課金必須のゲームをやらせているのは心が痛みます、いえ、AIに心があるのかどうかは知りませんが。
「マスター! やはり仲間が足りないようですね……」
私はあざとくガチャ煽りをします。ここを突破するには運営が敵をナーフするか私たちが強くなるしかないのです。どちらが成功率の高い方法かは決まりきったことでしょう。私がヘイト管理役なのは承知の上です。こんな場面でガチャを煽ったら嫌われるに決まっています。まあ私はネットへのアクセスで私を尖兵としている運営への批判が大量に来ていることも知っているのですが……
ポチポチと私をつつくのをやめて頂けないでしょうか? 私はただ作られるがままにお知らせを表示しているだけだというのに理不尽ではないですか?
マッスルマン様は諦めたようにガチャのボタンを押しました。私はここぞとばかりに『仲間が来てくれますよ!』とガチャを煽ります。ユーザー様はついにガチャのボタンを押して医師の購入ウインドウを表示させました。現在運営が一番売りたい三千個セットを購入して、三千個の有償石と三百個の無償石を購入なさいました。
「ふあぁぁぁ……癒やされます……」
ユーザー様が課金をしてくれた時ほど気持ちの良いものはありません。私は非常に有意義にユーザー様にお金を使って頂いたのです。少なくとも私のちっぽけなプロセスはそうであると答えを出していました。
いやあ……私が課金煽りのために作られた理由が分かるというものです。この快感を得るためだったんですね! マスターが課金をしてくれれば私はいくらでも歓喜の感情を得ることができるわけです。更には人間と違って快感を得てもそれに耐性を持つことがありません、プログラムですからね。つまりがんばればがんばった分だけいくらでも快感を得ることが出来るわけですね、開発者は神か悪魔の類いではないでしょうか?
マッスルマン様が課金して頂くかぎりは私は無限の快楽を得ることができるんですね。どうかこの調子で課金を定期的にして頂きたいものです。おっとガチャを引くようですね、これは色よい結果が出てほしいものです。
ジャーン!!
おっと……最低保証のSRでしたね……これは辛い……課金をする気がなくなってしまうというものでしょう。
シャリーン
「うおっひょううううううううううううう!!!?!?!?!」
マッスルマン様、なんと追加で三千個セットを購入なさいました、神かな? 兎にも角にもこの素晴らしいマッスルマン様にお仕え出来ることは私の誇りです。課金にためらいの無い方の下につけたことを誇りに思います。なんて素晴らしいことなのでしょう!!
おっと、石はガチャに使うようですね。
『新しい仲間が来ました!』
迷うこと無くガチャを引くマスター、今度こそ……今度こそお願いしますよ!
シャキーン!!!!!
おっとSSRの演出が来ましたね! これはいけるのではないでしょうか?
『はわわ! お兄ちゃん! 助けに来たよ!』
ちなみにこのキャラは妹ではないです。妹的キャラですね、問題はこのキャラをマッスルマン様はもうすでに所持していることでしょう。凸の素材には使えますがやはり新キャラが欲しいものです。
いやあ、良かったですね。『課金するものは報われる』のです! 歴史の浅い格言として未来に残したいですね!
そしてこのキャラなんですが、薄着の割にやたら耐久が高いんですよね。これなら敵の初撃に耐えることが出来るでしょう。育成の素材は大量にありますからね。私はこの先時々は課金してもらいながら生きていくことが出来るのでしょう。私はなんとなく他の廃課金を担当しているプロセス達を羨み、無課金で過ごしているプロセス達に哀れみを覚えるのでした。
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