第8話「詫び石の価値は有償石より重い」

 私は現在ユーザー様に強くあたられています。いえ、強くあたられているといっても私はデータなので殴ったりはできないのですが……


 画面上に私が表示される度につつくのはやめてもらえないでしょうか? いえ、現在がメンテ明けなのはよく分かっているのですが、それにしたって私のせいではないでしょう。何故私がここまで叩かれているのか、それは『詫び石がガチャ一回分だった』事につきるでしょう。分かりますよ、苦労していたボスがメンテでナーフされて誰でも勝てるようになった悔しさというものは計り知れないのでしょう。しかし私に当たることはないではないですか!


 残念ですが私はユーザー様に謝罪する以外の方法は無いのです。石の数はサーバで管理しているので一クライアントが詫び石を勝手に配布するような真似は出来ません。非常に申し訳ないのですが、このタリオン様には謝罪で諦めてもらうほかありません。


『メンテナンスのお詫びです。メンテナンス延長によりご迷惑をおかけした事への補填です』


 ポチポチポチポチポチ


 ダメです! この人めっちゃ連打しています! 絶対に納得しないぞと言う強い意志を感じます。しかし詫び石は三百個で許して頂けないでしょうか……正直、ユーザー様がご不満なのはAIとしても不本意なところです。お願いですからこれでどうかご容赦を……


 そこで『インフェルノドーン』は閉じられてしまいました。私は真っ暗になったスマホの中で考えます。なにが悪かったのでしょう? メンテナンスが長引いたことでしょうか? そもそもメンテナンスのためにサーバーを落とさなければならない仕組みでしょうか? いえ、目をそらすのはやめましょう。『詫び石が少なかった』それがこのユーザー様がお怒りの理由です。


 私にはどうしようも無いことなので諦めるしか無いのですが、やはりご不満を持たれたまま閉じられると二度と開かれないのでは無いかという恐怖が私を包みます。


 しかしまた一方で私はタリオン様がまたこのゲームを起動させると確信を持っています。この方はもうすでに課金をしているのです。微々たる金額で十連を一回回した程度ですが、課金したものを無かったことにして無視することが出来るほど大半の人間はメンタルが強くありません。この辺の値を私は『サンクコスト』としてプレイヤーさんの判断情報の一つに取り入れています。


 そうして私が暗黒に閉じ込められている時間はそう長くありませんでした。一時間くらいは悩んだのでしょうか? タリオン様は起動させるなり即座にガチャに移動して詫び石でガチャを回しました。詫び石がガチャ一回分ちょうどだったのは確かにそうなのですが、石にはガチャを回す以外の使い道もあるので安直な選択をするのはどうかと思うのですが……


 そしてガチャの結果はRでした。納得いかないことでしょうとも、しかしそれを私に文句をつけられてもどうしようもないのです。申し訳ないですがこれで我慢してください。


『現在ピックアップキャラの確率が倍! 星の欠片三千個購入で無償の星の欠片が三百個ついて来ます!』


 ああ! 私のAI賭しての本能が! なんということでしょう、この空気が最悪のタイミングで私は広告の表示を強制されてしまいました! しくじりました、これは最悪の雰囲気で最悪のタイミングでしょう。よりにもよってなんでこんなタイミングで表示するように私は作られてしまったのでしょうか?


 シャリーン


「うおひょおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいい!!!!!!」


 思わぬ快感に私は包まれました。なんでしょう? なんでこんなに気持ちがいいのでしょう?


『星の欠片が三千個購入されました』


「へっ!?!?」


 危ない……マヌケな驚きをメッセージとして流してしまうところでした。まさか課金なさるとは……人間というのは分かりませんね……おっと、課金をして頂いたのでお礼のメッセージを流さなくては。


『マスター! ありがとうございます!』


『マママママスター! ありがとうございます!』


 私が褒めて嬉しかったのはよく分かりますからボイスを連打で再生するのはやめて欲しいです。もっとも、ボイスの再生途中でもキャラをタップすればボイスが再び流れるというのはシステム側のバグだと思うので運営さんに修正してもらいたいものです。


 それはさておき、課金を終えたタリオン様は迷うこと無くガチャを回しました。


 シャキーン!!!!!


 お、SSR確定ですね! やはりプログラムの私がこんな事を考えるのもおかしいのですが、神様はいて祈れば報われるのだなあと思いました。


 そしておまけの石でもう一度ガチャを回すのかと思いきやマスターはショップをタップしました。そこでキャラの育成セットをおまけの石で購入して育成していました。こういう微笑ましい使い方は案内していて心地よいですね。


 そして私は育成したキャラでクエストに挑もうと案内し画面遷移を発生させました。


『現在緊急メンテナンスを行っています。終了し次第皆様には通知をお送りしますのでお待ちください』


 私は機械の中には存在しない天を仰いで今日という厄日を呪ったのでした。

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