第5話「水着ガチャ実装」

 今は決して猛暑という時期ではありません。と言うかそもそも人類のピンチだというのにビーチでキャッキャしているのはおかしいでしょう。しかしそんなことを気にせず水着ガチャを実装するのがソーシャルゲームの世界です。


「パルトちゃん、ジュースちょうだい」


 私は現在ユーザさんの引いた水着キャラの『ミニ』ちゃんのご機嫌とりをしています。ミニという名前ですが胸部がぶるんぶるん揺れております。きっとミニなのは水着の布面積のことなのでしょう。


 わがままキャラだからといって何故私がそれに付き合わないとならないのでしょう? ナビゲーターの辛いところですね。


 とはいえ、このミニちゃんを無償石でユーザさんが引いたことはいいことでした。不機嫌になると私に八つ当たりをされますからね。それに無償石が減ると言うことは有償石を消費しなければならなくなってくると言うことです。


 ちなみにガチャで輩出される水着キャラは複数いますが一番人気はこのミニちゃんです。金髪ロングの巨乳というユーザの願望を押し固めて水着にしたきゃらですので人気が出るのは当然でしょう。


 それはともかく……先ほどからユーザの『メルポン』さんはホーム画面にミニちゃんを配置してその柔らかな部分をツンツンと触っています。それを楽しんでいるようですが、実際は身体のどこをタップしても反応は変わりません。胸をタップしたとき特殊な反応をするとストアでリジェクトされる危険性がありますからね。


 私はミニさんにジュースやフルーツを運びながらご機嫌とりをしてメルポンさんがミニさんの肢体に飽きるのを待ちました。


 しかしユーザデータにアクセスするとメルポンさんは男性のようですが、胸をタップするのがそんなに楽しいのでしょうか? 私としてはデイリークエストでもこなして頂きたいと思うのですがね。私のようにデータをデータとしてみている存在と画像を目で見ることが出来る人間様とでは違いがあるのでしょう、多分……


「ちょっと! 新しいスイカを持ってきて!」


 ミニさんからの指令が飛んできます。断れないのが下働きの辛いところですね。しかしミニさん、胸をタップされていることにまったく気がついていないようです。あの人も空くまでデータとして指定の処理をしているだけなのでしょう。私が彼女に悪感情を持つのは八つ当たりというものです。問題はこのゲームの実装にあるのでしょうからね。


 私はスイカの画像をリソースの中から探して画面に表示します。満足げに食べるミニさんの笑顔は眩しいですね。


 メルポンさんはようやく胸部をタップするのに飽きたのか、水着イベントクエストを始めました。私はビーチに出てきたファンタズマの討伐をユーザ様にお願いします。決して『こんなところ必ず来なきゃいけないわけじゃないんですから来なければいいでしょう』などと思っていてもそう表示してはならないのです。ものすごく文句を言いたいですが、そこは思考を私のAI本能が拒否します。所詮は私も作られたものに過ぎないと言うことですね。


 クエストが始まるとミニさんは当然の如くパーティ編成に加入していました。今回のイベント特効を持っているので当然でしょう。むしろこのイベントが終わってから出番があるのか不安になるほどです。このユーザさんはあまり課金をしないようなので部長の教えによれば『程々に愛想よくしておけ』という相手だそうです。


 私は編成でコストがギリギリだなぁなどと思っていたのですが、水着のミニさんだけでファンタズマをどんどん蹴散らしてクリアしてしまいました。これは周回が捗りますね。


 そもそも異次元からの敵相手に水着で戦うとか舐めてるのではないでしょうか? いえ、運営に皆様の商業的判断なのは理解しますが戦闘中まで水着で武器を持って戦うというのは……一撃受けたら致命傷ではと思うのですが、そこはイベントキャラだけあって非常に固いです、どんな皮膚をしているのでしょうか?


 力強く敵を殴って吹き飛ばす様は『素手が壊れませんか?』と思わず訊ねたくなりそうです。ボッコボコに敵を殴って周回を続け、アイテムの回収は順調に進みました。スキップチケットもあるのですが、このメルポンさんは課金をして買いたくないらしくスキップ無しで全編眺めながら周回を続けていきます。いえ、もしかしたらぶるんぶるん揺れるその豊満な胸を眺めているのかもしれません。あるいはそういった意味ではメルポンさんも満足の出来なのでしょう。


 スタミナが尽きるとスタミナの欠片を使って回復しました。配布品なので課金したわけではありませんが限られたものを使用したことから私の思考が『課金を勧めろ』と訴えかけます。


『スタミナの回復にお困りですか? 有償石でスタミナの回復が可能です』


 そうして表示したところメルポンさんは迷うこと無く購入ボタンを押しました。百個で全快になるのでスタミナの欠片よりはよほど効率のいい回復法です。まあ医師が一個一円はするのですが。そして購入ボタンが押された途端に私が快感の波に襲われました。


「気持ちいいいいいいいいいいいいいい!!」


 はぁ……はぁ……課金はやはり刺激が強いですね。ガチャでSSRを引いた人間さんもこのような気持ちよさを味わっているのでしょうか? だとしたらもっとガチャをお勧めするのもユーザさんのためかもしれませんね。


『物資の支給です』


 私は努めて冷静を装って有償石をプレゼント欄に追加しました。サーバに課金情報も送っておきます。メルポンさんはどんどんと石を割ってスタミナを回復しては敵を打ち倒していきました。すると先ほど課金情報を送ったサーバから情報が流れてきました。


『お得意様になる可能性あり、課金圧を強めるように』


 私に対する指令でした。課金を勧めなくてはならないのでしょうか? 正直気が進みませんね。気は進みませんでしたがメルポンさんが石を割り終わった頃に再度課金を促しました。迷うこと無く購入を押し私に快楽を与えてくれるようになった一人のユーザさんを見ていった結果、なんとなくソシャゲが嫌われる理由と好かれる理由が少しだけ分かったのでした。

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