第4話「リリース後の下方修正は必要なんです!」

 私は退屈していました。今はサービスのメンテナンス中でスマートフォンの中でスリープモードになっています。じきにタスクキルされて意識が消えることでしょう。いえ、タスクキルが嫌なのではありません、有限のリソースを使うためですからね。問題はメンテナンス理由がガチャの確率変更のためということです。


 SSRが五パーセントだったガチャがなくなり恒常のSSR二パーセントガチャが実装されるのです。私は今から猛烈に恐れています、絶対にプレイヤーさんは文句を言うでしょう。私だけが文句を言われるわけではありません。私同じくオリジナルからコピーされたほぼ全てが文句をつけられると思うと胸が痛んでしまいます。プログラムでも心は痛むのです。


 そしてリリース記念ガチャが消えることを伝えるのは私の役目となっています。どう考えても針のむしろではないですか! 人間様はそういった不利益になる情報を自分から伝えることはしないようです。本人達は配信サービスの生放送に出てガチャを回すことを煽っているようです。それは正しいのだと思います、だって今ガチャを回せば五パーセントでSSRが出るのですからね。


 ああ、そろそろこのちっぽけなデバイスの神たるOS様が私をリソース食いとしてタスクキルする頃ですね……起きる頃のことを考えるときが重いです。現在のプレイヤーさんである『ミニスイカ』様はガチャの下方修正を多めに見て頂ける方でしょうか? 今まで初回有償ガチャしか回していない方なので私たちをデバイスから消すようなことはしないと思いますが……起きていられる期間が短くなることくらいは覚悟しておきましょう。そしてその後すぐに私の意識はRAM上から消し去られました。動くことの出来ないストレージの中でろくに考えることも出来ない時間がずっと長く続いたのでした。


 私は再び目覚めたときに新データのダウンロードを待っていました。プレイヤーさんが期待しているのか、ダウンロード中だというのに画面のあちこちをポチポチ押しています。私はこれから表示させなければならないガチャの下方修正を思うと気が滅入りました。この人は私に期待してくれているのです、そんな期待を裏切らなければならない宿命を呪いました。


 ああ……プログレスバーがそろそろ百パーセントに届きそうです、それが私に憎しみを送るトリガーになろうともサーバはデータの送信をやめません。無情にもダウンロードが完了したので私は『新しい仲間が来たよ!』と流す準備を始めていました。しかしそのタイミングが来ることはありませんでした。私は別のメッセージを送ることになったのです。


『ただいまサーバ負荷増大のため『インフェルノドーン』はメンテナンスを行っています。追って詳細情報を提供するまでお待ちください』


 まさかのメンテ延長でした。いえ、僅かな瞬間ログイン可能だったのは奇跡だったのでしょうか? 即座に接続先は落とされ、私がお詫びをしている画面にオープニングが差し替えられました、このくらいの余裕はあるようです。


 ポチポチポチポチポチ


 ああ! プレイヤーさんがイライラして画面を連打していらっしゃる! この後怒られるこちらの身にもなって欲しい。メンテナンスをしている人が頑張っているとしても叩かれるのはまず目につく私なのですよ! 何度もOKボタンを連打するプレイヤーのミニスイカさん。そろそろきれそうな気がして私は恐怖します。最終的に諦めた様子でゲームを終了させて再び私はタスクキルされたわけですが、その前に加速度センサーが突然大きな値を出したのでユーザー様がお怒りになってスマートフォンをそのへんに放り投げたのが分かりました。


 そして私はメンテナンスが終了したら画面に通知を送れるようにサーバからの通知を待ちました。二時間ほどしたところでサーバの復旧通知が届きました。私は必死に通知音を一回鳴らすとすぐにゲームが起動されました。さあて、私の本領発揮といきましょうか!


 ごめんなさい嘘です。ユーザー様に土下座謝罪をするのが私の役目です、まあ土下座画像なんて用意する時間は無かったので起動画面にお詫びを表示するだけなのですが。


 私は恐る恐る今回のメンテ内容と、メンテナンスに対する補償を表示しました。驚くべき事ですがリリース記念ガチャが消えたことは前者の表示を大文字でしているのでスクロールしないとそこが見えません。一番大事なところだというのにいいのでしょうか? 正気とは思えませんね。


 しかもユーザのミニスイカさんはスクロールすることなくお知らせ画面を閉じました。わざわざ確認しないかぎりガチャの下方修正に気がついたときに一体なんとSNSにかき込まれるのでしょうか? 考えるだに恐ろしいことですが、ユーザという者は下方修正に敏感であるとAIとして学習されたデータに大量に入っていました。


 私の役目はプレイヤーさんに課金をしてもらうことです。しかしここで私は考えます、下方修正は出来るだけ目立たないようにが基本です。今課金煽りをするのは得策ではないでしょう。ではここで第一声で何を言うか? それはもちろん決まっています。


『救世主様! 物資が届いているようです! プレゼントから確認してください』


 下方修正されたのを誤魔化すためにガチャ石を配る! これぞ運営が神と呼ばれる理由です。神様が下賜された石こと『星の欠片』は五十連分です! リリース直後は客を惹きつける、そのために石を配布すればとりあえず話題にはなります。なにより私に当たられてホーム画面で親の敵のようにツンツンされても困るのでガチャを引いてもらいましょう。


 想定通りプレゼントを開いてくれた。この世界が破滅したような世界観で唐突にプレゼントなどと言う軽い名前が出るのは違和感を覚えるかもしれないが、誰がどう見てもわかりやすいのはUXとして重要なことです。正体不明の怪物が出てきている中平和なプレゼントという言葉、ものすごく軽く感じられてしまうのですが。


 そしてミニスイカ様はプレゼントを受け取るなりすぐにガチャのボタンをタップしました。ここで気づかれるかどうかが運命の分かれ目……と言いたいところですが、ガチャの確率なんていう明記しなければならないものはバレるに決まっています。そこを穏便に済ませられるかが大事なところです。


 ガチャ画面を開かれるとミニスイカ様は画面のスワイプを始めました。私には分かります、きっと他のガチャを探しているのでしょう。ですが現在はイベントも開かれておらずあるのは恒常として設置された唯一のガチャでした。今はイベントは行われておりません。


 さて、ここで一つ問題があります。私はここでガチャを引くよう促すべきでしょうか? サポートAIの役目としては石の消費を促すのは当然のことです。しかしここで回してくださいとお願いすると下方修正されたことに気づかないまま、このミニスイカさんはガチャを回すことになるでしょう。しかし私は当然のことですが下方修正されたことに言及出来ないように作られています。このジレンマはどうしたらよいのでしょう?


 プログラムなら悩まないかと言えばそんなことはないのでしょう、特にAIのように曖昧な者を扱う者なら必然そうなります。


『新しい仲間からの通信です!』


 おや? ユーザさん自らの意志でガチャを引いてくれたようです。残念ながら下方修正されていることは確認されていらっしゃいませんが大丈夫でしょうか?


 シャキーン!!!!!


 あぁ~! SSRの音~!


 助かりました! ユーザさんがSSRを引いたなら今のところ下方修正を責められることはないでしょう。


 ミニスイカさんはガチャで出てきたロリキャラに素材を大量につぎ込んで育成をしていました。この際凸には大量にかぶせる必要があることを言う必要は無いでしょう。どうかユーザさんと長い付き合いが出来ることをプログラムである私が神様に祈るのでした。

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