第3話「リセマラ大好きな人の場合」
「やっほー! 私パルティール! 気軽にパルトって呼んでね?」
なーんていったところで誰も聞く人はいない。現在クリアされたキャッシュの再ダウンロード中だ。私の担当は『ノーブル』さんというらしいが、この人はとかくリセマラが好きなようで、もうすでに十回を超えるキャッシュのクリアを繰り返している。部長にはダウンロードさせるのもただではないのだぞと言われていたが、そんなことを私に言われても困る。
このノーブルさんはSSRを二枚抜きしても妥協せずにリセマラを繰り返している。そのくらいで納得してほしいものだと思うのだが、人の心というのはまったくもって理解不能です。そしてこの人、回線速度の遅いWi-Fiでダウンロードをしている。まだ高速回線でダウンロードしてくれればもう少しすることもあるのだが、この人は節約のためだろうか、回線速度が呆れるほどに遅いのを我慢してリセマラをしている。そのせいで私はすっかり暇な時間を過ごす羽目になってしまった。
運営だってバカじゃないのだからガチャの確率操作なんてしていません。この人はSSRを引ける僅かな確率を複数個もらおうとしているのです、普通は二枚も来たら満足すると思うのですがこの方はそうでもないようですね。
あ! そんなことを言っているあいだにダウンロードが終わったようです。
「ノーブル様! これで救援信号を送れます! 仲間を呼んでください!」
いい加減数えるのも面倒になるほどこの方の十連には付き合わされました。速いところゲームを始めていただけないものでしょうか……
シャキーン!!!!!
残念ながらSSRの確定演出は初回確定分の一枚のみでした。私を含めたアプリは何事も無くタスクキルをされてしまいました。そしてすぐに再起動してキャッシュのクリアです、いい加減ゲームを始めてもらえませんかね……この人はこのゲームの世界を救ってくださる方とは思えませんね。とはいえ、そこはプログラムの悲しいところ、一度決められた動きから逸脱することも出来なければガチャの操作をしてレアを大量に出してあげることも出来ないのです。
そうしてまたも私は退屈極まりないゲームのダウンロードを待たされることになりました。そもそもこういうリセマラをする人は余りお金にならないのではないでしょうか? ちゃんとサーバからのデータ転送料をペイ出来るのでしょうか? 部長は絶対に経営的な情報を教えてくださらなかったので私には分かりません。きっと知る必要が無いことなのでしょうが、私はサービス継続のためにそういった情報も開示して頂きたいと思っています。
ああ……そんなことを考えていたらゲームデータをダウンロードし終わったようです。
私は今回も半ば諦めながらいつもの定型句を喋ります。プレイヤーであるノーブルさんは私のボイスが最後まで流れる前にガチャを回すボタンを押しました。ええ、もう何度目になるか分からない『初めての出会い』ですものね、一々話なんて聞いていられませんよね。
私がガチャのシステムを動かします。このままでは大変私が困った状態になるのでなにがなんでもSSRの三枚抜きくらいはしてほしいものです。
シャキーン!!!!!
シャキーン!!!!!
おっと、二連続でSSR確定演出が出ました、なかなか良い感じのラインナップでガチャから排出されました。
プレイヤーさんはすぐにタスクキルをしませんでしたが、そのまま先に進むもタップしませんでした。私としてはいい加減先に進んで欲しいのですがね……
悩んだ末に私の意識は落とされました。これが一時的に落ち着いて考えているのか、すぐ起動されてキャッシュクリアされるのか、システムから終了指示が来たときに考えが駆け巡って意識が消えました。
そして次に目が覚めたとき、プレイヤーさんはタイトル画面でキャッシュのクリアを選択しました。迷いが感じられたところからもそろそろリセマラに飽きつつあるのではないでしょうか、だとしたら私を一刻も早く世界に解き放ってほしいものです。
今度こそ……今度こそお願いしますよ……私はプログラムなのですが、いるかどうかも分からないサーバを司る神にこの方へ幸運が降り注ぐことを祈願しました。
そしてシナリオを一気にスキップしてガチャ場面まで飛びます。さあ今度こそリセットされない排出を頼みますよシステム様!
シャキーン!!!!!
シャキーン!!!!!
シャキーン!!!!!
よっし!! SSR三枚抜きです! これで文句のある人はいないでしょう。と言うかこのプレイヤーのノーブルさんはどれだけ我慢強いのでしょう、私はこの人が好きではありませんが同じ事を何度も繰り返すという機会が得意とする分野を人間様が行ったことに感心しました。
さあ、ファンタズマとの戦闘ボタンが表示されていますよ! これは押すしかないでしょう!
ピッ
よっし!! ようやく話が先に進んでくれる! なんでまだ始める前だというのにこんなに私は疲労を感じているのでしょう。まさか機械が疲労するわけは無いのですが、ジャンクなデータにつけられてしまうとプログラムだってやさぐれてしまうのです、
そして戦闘に入ったのですが、この方はコストの重いSSRキャラ三体を配置してゴリ押すという戦法に出ました。力こそパワーという言葉がミームであることは知っていますがこの方にピッタリなのではないかと思える言葉です。
『やられてしまいました~星の欠片百個でここからまた戦えますよ!』
私は投げやりに言いました。ここまでリセマラをするケチな人がバカみたいな戦法を採って負けただけで課金などするはずもありません、RやSRのキャラを配置してSSRは一人か二人配置するだけで勝てる相手です。そもそも数がものを言うゲームでコスト一杯まで強キャラで埋めるのは悪手でしかありません、そういうものはもっと先になってレベルアップでコストに余裕が出てからするものです。
『コンティニューします』
システムから投げられたメッセージを私は二度見しました。リトライ!? 正気ですかノーブルさん!?
そしてこの方はまたSSRだけを配置して再開しました。編成の変更も出来るのにあえてのパワープレイです。正直私は呆れましたが所詮はチュートリアル戦です。一度コンティニューすれば余裕で勝てるようには出来ています。
『ありがとうございます!』
そう戦闘後にメッセージを送った私は、こういう人が案外石を買ったりしてくれるのかと思い、この方との長いお付き合いを望んだのでした。
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