第5話 マークと聖女、新パーティーを結成する

 僕とルルリアは町の冒険者ギルドを訪れていた。

 新しくパーティー登録をするためである。勇者パーティーを追放された僕は、早く新しい仕事を探さなければならない。

 ギルドではクエストという依頼を受けて報酬を得る。クエストにはピンからキリまであるが、複数人のパーティーを組んでいると受けられるクエストの幅が広がるのだ。


 受付の順番待ちをしている際に冒険者たちの雑談が聞こえてきた。


「聞いたかよぉ、虹の勇者パーティーが魔王領の一角を奪還したらしいぞ」

「深紅の勇者パーティーは、魔族の将軍を討伐したらしいぜ」


 魔王討伐かぁ。勇者パーティーに残っていればそんな日も来たのだろうか。

 世界には複数の勇者パーティーが存在する。彼らの最終目的は魔物のボス、魔王討伐である。

 ちなみにグリタスは光の勇者と呼ばれている。

 でも僕は追放されたし、もはやどうにもできないことだ。スキルをみがいて妹の治療費を稼ぐことに集中だ。


「は~い、おまたせしました~。ギルド受付のタリアで~す」


「あの、パーティー登録をしたいんですが」


「しょうちしました~。では登録申請用紙をお預かりします~」


 僕が取り出した登録書を受け取るタリアさん。なんか独特な話し方する人だな。

 そして、体を動かすたびにゆさゆさしている2つの膨らみ…この人もルルリアに負けず劣らずの大きさだ。


「え~と、マークさんは支援職と。そして、ルルリアさんは、わぁ、すご~い聖女さまなのですね!」


 受付のタリアさんが提出した書類をみて驚きの声をあげた。

 まあ、聖女は限られた人しかなれないので、所属するパーティーとしては聖女がいれば格があがる。格上パーティーには聖女枠は欲しいところだろう。僕のパーティーに格なんかこれっぽちもないが…


「ふふ~マークさん支援、ルルリアさん支援かぁ。支援だらけパーティーですね~」

 

 だらけってなんだ、そもそも2人しかいないから。

 しかしタリアさんの言う通りではある。


 本来パーティとは前衛に戦士や剣士といった直接攻撃もしくは防御力の高いメンバー。後衛に魔法使いや聖女といった遠距離攻撃や支援が得意なメンバーで組むのが最適とされている。

 僕が追放された勇者パーティーでいうなら、僕やルルリアは後衛の支援職ということになる。


「ふむふむパーティー名はサンマーク。へぇマークさんを逆にしたのかな? ではお二人の冒険者情報を新パーティーに移しますね~」


 いやいや違いますよ。ルルリアいわく[太陽のマーク]という意味らしいです。もっととんでもないパーティー名候補があったので、その名前で折れたんです。僕が。自分の名前をパーティー名に入れるとか本当は気が進まないけど、この際しょうがない。


「あら、ルルリアさんは勇者グリタスの「栄光の輝きパーティー」になってますよ~。パーティー登録変更していいんですか~?」


「はい! すぐにでもパーティー登録抹消してください! 未来永劫! 一切の痕跡を消してください!」


「は、はぁ。承知しました…」


 ルルリア、圧のかけすぎだ。タリアさんが自分の口調忘れるぐらい引いてるよ。

 ルルリアは勇者がよほど許せないのか、この件に関しては容赦ないな。


「ん? マークさんは冒険者登録されてないようですね~」

「え? おかしいな、パーティー結成時に勇者がすませておいたとか言ってたんですけどね」

「ちょっと、先輩そこ詳しく!」


「え~と、たしか勇者グリタスが冒険者登録しておいてくれるって言うから」


「言うから?」


 ルルリアがズイと顔を寄せてくる。近いな…


「彼にお金を預けたんだ」


 ルルリアの額からピキッて音が鳴った。


「最低ね、マーク先輩のお金をちょろまかすなんて」


 ひっ…怖いですよ、聖女様、顔怖いですよ。


「マーク先輩はお人よしがすぎます。ここは私が妻になって支えないとブツブツ…」


 また不穏な単語がブツブツ聞こえてきた。


「う~ん、それはひどいですね~でも経緯はどうであれ、冒険者登録は必須です~」


 タリアさんがにこやかに正論を述べられた。

 これはまずいぞ。冒険者登録しなければギルドのクエストを受けてお金を稼ぐことができなくなる。それにパーティー登録もできない。


「は、はい。登録します。でもそのちょっと登録料が…」


 登録料金はたしか1000ゴールドのはず。そんなお金は無い。


「なるほど~でも登録料を支払わないと登録はできないですね~」


 タリアさんがさらににこやかに、正論を述べられた。まぁそりゃそうだ。


「とりあえず、測定だけはしておきますか~。どのみち登録するなら必要なので~」


「測定?」


 登録時に個人の力量をはかるのだらしい。

 タリアさんが丁寧に説明してくれた。

 というか何も知らないで冒険者名乗ってた僕って…


「ちなみに、測定値1,000P以上の数値が出た場合は、登録料が免除されますよ~」


「ええ! 免除!?」


「はい~将来有望な冒険者はギルドとしても優遇して確保したいですからねぇ~」


 タリアさんが、測定装置のある場所に僕らを連れて行ってくれた。


「では、マークさん。こちらのパンチング水晶をぶん殴ってください~」


「えと? 叩けばいいの…ですか?」


「いえ~思いっきりぶん殴るんですぅ~ふふ~」


 タリアさんちょくちょく、言動がおかしい気がする。まあ1000p以上なら免除だ。頑張るぞ。


 僕は【ソーラ―パネル】を発動して太陽電力を充填し始めた。


「レクシス…あまり出力は上げなくていいぞ…」

『はい…マスター。ですが、ある程度は出力を上げないと免除されまセンヨ…』

「う、痛いところつくなぁ。頼むからくれぐれもほどほどにしてくれよ…」

『了解。ほどほどでイキマス』


「マークさん、なにボソボソ言ってるんですか~早くぶん殴ってください~」

「マーク先輩! 免除狙いましょう! 免除! 免除! 免除!」


 ぐっ、外野あおりすぎだ…しかしここは是が非でも免除は勝ち取りたい!

 僕の拳に太陽電力が充填されていく。

 ルルリアを助けた時は全身から太陽電力を【放電】スパークしたが、体の一部のみで【放電】スパークの使用も可能だ。

 今回は、右のこぶしにのみ太陽電力を使用する。


『マスター、【放電】スパーク準備完了デス』


「よし!」


 僕は踏み込んで、軽やかにパンチング水晶を打った。こぶしが水晶に衝突する瞬間、強烈な閃光がギルド中に拡散された。


 ピシッ


 あ、嫌な音した…


「ひゃぁ~、な、なんですか~。いまの光? って、測定不能! なにこれ!?」


 近くにいたタリアさんがびっくりしてキョロキョロしている。


 ああ~こいつのほどほどはいつもズレてんだ…

 まあ僕も免除を意識しすぎて力いれすぎてしまったんだけど…



 どうしよう。これやり直ししたい。

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