第4話 聖女ルルリアの決意

「わぁ~マーク先輩! このパン、ハートの形してます~宿屋の女将さんが気を利かしてくれたんですかね~」

「う、うん。そ、そうだね。珍しい形だね」


 僕らはマルアートという町のある宿屋にて朝食を取っていた。


 先ほどからテンション高めで食事をしているのは、聖女ルルリア。

 Sランク勇者パーティーメンバーの1人である。


 昨日、森でキングベアーから彼女を助けたあと、この宿に宿泊した。

 もちろん別室である。ルルリアがまだ不安だから一緒がいい、とか無茶を言ったが、年頃の聖女と同部屋などとんでもないと必死に阻止した。

 なんか、夜遅くまでルルリアの部屋に明かりがついていたようだが、ちゃんと休めたのだろうか。


「昨日私を救ってくれた稲妻って、マーク先輩の魔法なんですか?」


「ああ、そうだね。僕のスキル【ソーラーパネル】の力だよ」


 ルルリアが僕のことを先輩というのは、王立アカデミー時代のなごりである。

 アカデミー時代に彼女の勉強をみたり、冒険者修行に付き合ったりしていた。


『【ソーラーパネル】は日中にパネルを展開して太陽から電力を貯めることができるノデス』


 んん? 珍しいな人前にでたがらないレクシスが姿を現すなんて。今までルルリアの前にすら出たことなかったろ。


「あ、昨日マーク先輩にレクシスとか呼ばれていたよね。わたしルルリアよ。呼び捨てでいいからね」

『はい、ルルリア。私は【ソーラーパネル】付属の解説キューブ「レクシス」デス』


 そういえばルルリアとは長い付き合いだけど、僕のスキルを詳しく説明したことはなかったな。

 レクシスが人前にでないし、みんなにバフで支援していることがわかってもらえればそれで事足りたからだ。


『話の続きですが、貯めた電力はマスターの体内に蓄積されマス』


「えええ! マーク先輩の体内!! どこ? 主にどこ? 下半身とか!? 気になる~~~」


『特定の部位ではなく、体全体に蓄積サレマス…』


 聖女様、食いつく部分間違えてレクシスさんが引いてますよ。淑女が僕の下半身とか言わない方がいいよ。


 この世界には魔力を注入して起動するものがある。街灯や冷暖房器具その他、鉄道なんかの動力としても使用されている。まあ鉄道は王都や大都市にいかないとないし、なにより運賃が高い。一般的には馬車や徒歩移動だ。

 実はこの電力というエネルギーのほうが魔力より純度が高いのか、器具の動力にせよ、他者にバフをかけるにせよ、よく馴染んでより効果を発揮するのだ。


『蓄積された電力は【魔力充電】チャージとして再利用することがデキマス』

「レクちゃん! 【魔力充電】チャージってなにかな?」


『レクちゃん…【魔力充電】チャージは、太陽電力を他者に付与することによりバフを与えることができるスキルなのノデス』

 

 あだ名で呼ばれ始めたレクシスが、若干戸惑いながらも説明を続ける。


「あ、それってもしかして、いつも私たちをサポートしてくれてたやつ? 私、支援魔法だと思ってたわ。そっか~スキルっていうんだね」


『マスターはピンポイントで【魔力充電】チャージをパーティーメンバーに使用してイマシタ。基本的には魔力量や威力にかかわる魔力純度がアップシマス。あとはルルリアのように光属性の魔法や、勇者の聖剣などには特に大きなバフ効果を及ぼしマス』


「そっか~わたしマーク先輩と一心同体だったんだ! すでに!」


 それは違います。単にバフがかかって、能力が向上するだけですよ聖女さま。


 あと、密着すればするほど効果があがるんだが、それは今のところ黙っておこう。

 基本的に、僕は遠隔で【魔力充電】チャージを飛ばしていたからな。本当は直接触れた方が効率いいんだけど、勇者パーティーはルルリアをはじめ女性が多い。僕が毎回触りまくるわけにはいかないからな。


『また、マスター自身も蓄積した太陽電力を放出することができます。これが【放電】スパークデス』


「つまり、電力を体にためて、私たちにバフをかけてくれたり、先輩自身が使用したりできるってことね」


 ふむ、そのとおりだよルルリア。彼女の理解力は高い。ちなみに僕は一切魔法が使えない。スキル持ちだからかどうかはわからない。そもそもスキルを持っている人に出会ったことがないし。


「はぁ、もうマーク先輩はもっと自己主張すべきですね。先輩は凄い人なんだから!」


 一連の説明を聞き終えたルルリアがため息をもらした。


 いや、僕は支援要員として雇用されたんだ。

 仕事内容はパーティーの支援であって、僕自身が目立つことじゃない。


「目立つのは勇者であるグリタスの役目だよ」


「あんなクズにその資格はありません! 1ミリも! マーク先輩は自分から去っていったとか最悪のウソつくし」

『私も今までの言動から分析してゴミと結論がデマシタ』


「だよね~レクちゃん話わかる~」


 クズとかゴミとか、ひどい言われようだな。あの勇者。


 しかし、嬉しいな。僕はみんなに不要と思われていたのかと落ち込んでいた。結構きつかった。

 でも、ルルリアは違う。僕のことを理解してくれていた。それがわかっただけでも十分だ。


 まあ、久しぶりに可愛い後輩との朝食を楽しめて良かった。

 しかし、そろそろ現実に戻らないとね。


「さて、朝食も済んだことだし。送るよ」


「え? 送る? 何か配達便でも頼むんですか?」


 ルルリアがとぼけた。


 いやいや、聖女さま。

 あなたですよ。


「いや、ルルリアを勇者グリタスパーティーの拠点まで送るってことだよ」


「え? わたしはマークパーティーのメンバーなのであんなクソ勇者パーティーには戻りませんよ」


 マークパーティてなんだ。

 うすうす感じていたがやはりか…


「でもね、ルルリア。君は勇者パーティーに入ることが目的だったじゃないか」


 そう、彼女は貴族出身であるが、聖女の役割を平民にまで広げたいという想いで勇者パーティーに加入した。

 聖女は優れた治癒魔法を使うことができるが、対象者が貴族メインである。

 理由は聖女に支払うお布施が高すぎるのだ。

 だが、彼女一人が教会に働きかけても小娘のたわごとと一蹴されてしまう。

 そこで、勇者パーティーに加入して知名度を上げて、教会での発言力をつけると言うのが彼女の目的の1つだ。

 

 今では聖女としての役割をしっかり果たしている。勇者パーティーとしても聖女が抜けるのはまずいだろう。

 王様も言っていたしね、聖女は必ず1人パーティーメンバーに入れること。これは魔王討伐にあたり国をまたいだ世界的な影響力をもつ教会を代表する聖女が勇者パーティーに在籍していることに意味がある。そして教徒たちの支援を取り付ける政治的な意味合いもある。


「マーク先輩、私は勇者パーティーに入ることが目的ではありません。私の考えに賛同してくれる力あるリーダーの元で活動することが目的です。勇者グリタスでは力不足です。それにあいつ私の胸ばっかみて、俺様ハーレムの正妻とかブツブツ言ってキモいんです!」


「は、はい…」


「それに先輩! パーティーには回復担当が必須ですよ! 使える人いますか?」


「はい、いません…」


「あと私はライトシールド等の防御系魔法も使えます! 使える人いますか?」


「は、はい、いません…」


 う、なんか圧がすごい。

 まえまえから思っていたが、ルルリアはこうと決めたら、もう言うこと聞かないんだ。

 昨日は泣きながら抱っこされてたのに。


『マスター? そもそもマスターはパーティーを結成する気あるのデスカ?』


 おお! ナイス突っ込みだレクシス!

 そうだよ、ルルリアの圧に押されてなんかマークパーティーなる単語が出てくるが、そんなものはそもそもないんだ。もっといけレクシス!!


「レクちゃん。マークパーティーはすでに存在しますよ」


 そう言って聖女ルルリアは1枚の紙を取り出した。


「なになに、冒険者ギルド提出様式5号:パーティー登録用紙…パーティー名「栄光のマーク先輩と聖女の愛の巣」…」


 なに書いちゃってんの! この子! しかもパーティー名がヤバすぎる!


「い、いやルルリア…これまだ提出してないよね。そもそも僕の署名がないし」


「え? 4号様式の方がいいですか? あれ複写式じゃないから3枚書かないといけないんですけど。まあ先輩がこだわるなら書き直します。パーティー名とか徹夜して考えたんですよぉ。あとマーク先輩の署名は大丈夫です。ちゃんと魅了の魔道具持ってるので、夜にでも油断している時にいけますから」


 違う! 様式とかどうでもいい! このパーティー名のために徹夜してたのか…ちゃんと体を休めないとダメだよ。あと後半凄まじく不穏な単語が聞こえたぞ!


「ふう」


 僕はいったん深呼吸して、ルルリアの目をみて問いかける。


「ルルリア、僕だって君が僕とパーティーを組んでくれるのなら嬉しいよ。でもそれが原因で君の夢がつぶれてしまうのは絶対にダメだ。だから少しでも違うと思ったらパーティーを解散して各々の道をいく。それを約束してくれ」


 ルルリアは目をパァっと輝かせて前のめりに言い放つ。


「ふわぁああああん! やった~マーク先輩と一緒にいきます~いいんですよね!」


「う、うん」


「2人旅ですよね! ね! ね!」


「ま、まあそうなるのかな」


「じゃあ早速この町の冒険者ギルドへ行きましょう! 善は急げです~」


 ルルリアに力強く引っ張られながら、僕らは冒険者ギルドに向かうのだった。

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