第2話 マーク、聖女を助ける

 僕は勇者パーティーを追放された。


「はぁ…しかし参ったなぁ…」


 僕は隣町に向かうため、森をトボトボと歩いている。


 今まで滞在していた町のギルドでは、新たな仕事が見つからなかった。

 さらには、僕を受け入れてくれるパーティーも皆無であった。


 それには理由がある。

 どうやら勇者グリタスが手を回したらしく、僕がソロで受けられるクエスト(仕事)や支援職を求めるパーティーに対して圧力をかけたらしい。


 勇者パーティーは数あるパーティーの中でも最高ランクのパーティーであり、勇者グリタスの影響力は非常に大きい。その勇者に逆らえば、あとあと仕事面や取引などで不利な状況になる可能性が高い。


 ようするに、僕には仕事を与えるな。そしてパーティーにも入れるな。ということだった。

 その執念は凄まじいようで、町のギルドは当然のごとく、その他の施設、果ては個人宅にまで圧をかけたようだった。

 勇者グリタスは僕に町から出ていけと言ったが、ここまでする必要があるのだろうか。

 おかげで太陽が降り注ぐ日中、仕事さがしで町中を歩きまくることになってしまった。全て無駄だったけど…

 パーティーから追放しただけでなく、本気で町からも追い出したいらしい。


「ふぅ…」


 僕はため息をつきながら、道なき道を突き進む。


 なぜ、こんな森を突き進むのかって?

 答えはただひとつ。ショートカットである。


 隣町といっても、森を迂回して街道を馬車で進めば金がかかるうえに数日かかってしまうのだ。

 しかし、僕にはお金を工面するあてがない。

 いま所持しているお金で宿代などを支払うとなると、削れるところは削るしかないのだ。


 できうる限り早く隣町の冒険者ギルドに行って、なんらかの仕事を獲得しないと。


『マスターも物好きですね。こんな魔物のでる森を横切るなんて、なぜ馬車を使わないのデスカ?』


「レクシス、さっきも言ったけどお金がないんだ」


『お金ならあるでしょう。あまり余裕はないデスガ』


「だめだ、これは妹のマリーの治療費と今日の宿代だ」


 勇者グリタスが給料日前日に僕を追放するから。ふところがとても寂しい。今日は朝からなにも食べていない。


『こんな薄気味わるいところ歩くぐらいなら、使用してもいいと思いますケドネ』


 僕の横をフワフワと飛ぶボールのような球体が悪態をつく。


 このボールの名前はレクシスだ。

 レクシスは僕のスキル「ソーラーパネル」のオプションみたいなもので、スキルを獲得したときからこうやってフワフワとついてくる。


 ようは、スキルのガイドみたいなもの。

 と、レクシス本人が言っていた。

 人前に出るのが嫌いな性格なのか、僕が1人の時以外は滅多に姿を現さない。他者がいる際はいつも認識阻害機能を使っている。要するに勇者グリタスたちにはレクシスが見えていない。

 ちなみにこのスキルという力はほとんど知られていない。魔法とは違う力らしい。そもそも僕は魔法が一切使えない。

 レクシス曰く、はるか昔は多くの人がスキルを持っていたらしいが、今ではほとんどの人が持っていないとのことだ。だからグリタスも支援魔法といっていた。その魔法としての力も認められずに追放されたのだが。


『妹さん想いは良いですが、ここで野垂れ死んだらもともこもないデスヨ』


「こんな森で野垂れ死になんかしないよ。グゥ~」


『何か鳴りまシタヨ』


「妹のマリーのためには多少のことは我慢だ。グゥ~」


『説得力のないグゥ~デスネ』


 マリーは実家にて療養中だが、定期的にお金を入れる必要がある。今月分がギリギリなのだ。

 とはいえ、はぁ~お腹空いたよぉ。

 せめて退職金ぐらいもらえば良かったかぁ。 


『そんな腹ペコのマスターに朗報です。前方200メートル先に強めの魔物反応アリ』


 レクシスには索敵機能が付いている。こうやって僕に教えてくれるのだ。たまに教えてくれない時があるけど。

 うむ! こうなりゃ魔物でもなんでもいい。背に腹は代えられない。


「よし、【放電】スパーク準備!」


『了解、太陽電力放電準備シマス』


 僕は日中に太陽の光を【ソーラーパネル】で吸収することができる。吸収した太陽電力は僕の身体に蓄積して、自身で放電(【放電】スパーク)したり、他人に与えたり(【魔力充電】チャージ)することができる。今行っているのは放電の準備だ。


「頼むから食べられる魔物であってくれ!」


 僕はそう言いながら、ターゲットの魔物に向かって接近する。


『マスター、魔物以外にも何か反応があります。おそらく人間かと思われマス』


「きゃあああ! 来ないで!」


 レクシスの言葉が聞こえた瞬間、叫び声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声だ。


 足を速める僕の前に魔物が見えてきた。

 あれはキングベアーか!? 

 そしてキングベアーの足元で怯えている女の子がいる。


 ルルリア!?


 それは、僕が追放された勇者パーティーメンバーの聖女ルルリアだった。

 彼女は今にもキングベアーの鋭い爪に引き裂かれそうだ。


「まずいぞレクシス! 出力をあげてくれ!」


 キングベアーはAランクモンスターだ。生半可な攻撃では仕留めきれない。もし反撃を許せばルルリアが危ない。


『了解、出力上げマス』


 太陽電力ならタップリと補充してある。なにせ勇者グリタスのお陰で町中歩き回ったからな。


「よし! レクシス! 【放電】スパーク開始!」

『了解、太陽電力放出開始シマス』


 僕の身体に電力がみなぎる。


 ぐっと地面を踏み込んで、思いっきり蹴り出すーーーーーー


 一瞬で稲妻の塊がキングベアーに衝突して、あたり一面にまばゆい光が降り注ぐ。


 キングベアーが真っ黒こげになって、その場に崩れ落ちた。


 ルルリアは!? 彼女はその場にちょこんと座っていた。放心状態ぽいが無事だ。


 ふぅ、良かった。キングベアは完全に炭になって消滅してしまったようだ。


 ん? 


 しょ、しょうめつぅ!?


「ああ~やってしまった〜! 貴重な食料がぁあああ!」

『マスターが、出力アップといったでショ』


 ぐっ、やりすぎなんだよ…こいつ…


「え? え? 私助かったの!?」


 ああ、混乱しちゃうよね。

 僕は勇者パーティーに所属していた時は【放電】スパークは使っていない。

 普段は【魔力充電】チャージでみんなに力を付与しており、それで事足りていた。

 勇者パーティーは「聖女」「魔法剣士」「魔法使い」いずれも魔力に依存するパーティーだったので、僕は後衛として支援の役割に徹することができたのだ。力の底上げをすれば、非常に強力なパーティーになる。さらに勇者の聖剣にも強力なバフをかけられるから、前衛ポジションに僕は不要だった。そもそも勇者グリタスは誰よりも前に出たがるし。


「ルルリア大丈夫?」


「あ、あぁ、その声…」


 僕はルルリアに手を伸ばそうとしたが、それよりも早く抱きついてきた。

 ものすごい勢いで、バイ〜ンと。


「うわぁ~ん! 先輩、会いたかったです〜!!」

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