第20話 『 姉の全力拒否と弟の答え 』


 訪問者・シエスタの目的は、アノンの勧誘だった。


「騎士団なんて絶対ダメ!」


 それを全力で拒否するのはアノンではなく、姉であり保護者でもあるリアンだ。


「お姉ちゃんの意見は聞いてませーん」

「私はアノンの保護者よ! ならまずは保護者の許可をもらうのが筋ってもんでしょうが!」

「アナタにそれを言えば、絶対拒否してくるって分かり切ってたから直接弟くんに聞きに来たのよ」


 そしてシエスタは猛抗議するリアンを無視して、


「どう? 弟くん。騎士団に入ってみない?」

「…………」

「アットホームな職場よ~。お給金もちゃんと出るし。何なら弾んであげる」

「どこがアットホームよ! 殺伐としたブラックな騎士団でしょ!」

「はいそこのお姉ちゃん。いい加減黙りましょうね~」

「もご! もごご! もごごごごご!」


 シエスタに口を押えられて尚反発するリアン。

 そんな姉に苦笑しながら、アノンはシエスタに疑問を述べた。


「あの、シエスタさん。まず先に聞きたいことがあるんですけど……」

「んー、なに?」

「そんな簡単に騎士団に入れるもの何ですか?」


 はい、の一言で入れるような機関ではないことはアノンも既に知っている。


 この国の騎士になるには、年に二度行われる適正審査と模擬試験を行わなければならないはずだ。一部では学院推薦で入団できるようだが、生憎とアノンは学校には通っていない。


 だから気になって聞いてみれば、シエスタは「問題ない」と断言した。


「そこは一番目プラチナの特権でどうとでもできるわ」


 不安だ。


「安心して弟くん。私たちには心強い後ろ盾がある――そう、私たちには時期王女ブラコンがいるのよ!」

「まぁ、たしかに姉さんならそれくらいの事は簡単にやってのけそうですけど……」


 しかし、だ。


 ぷはっ、とシエスタに口を押えられたリアンがようやく拘束を解くと、途端捲くし立てるように言った。


「絶対にアノンは騎士団には入団させないわ。あのクソ爺と国の為になんか誰が働かせるもんですか。アノンは私の元で永久就職させるって既に決まってるの。第一、私がなんでこの生活をしてるかアナタ分かってるの? あのクソ爺のせいで散々な目に遭ってきたアノンに幸せな暮らしを送ってもらう為にこの静かで自然豊かな土地に家を建てたの。要するに、アノンは働く必要はないしやりたい事だけやってればいいの」


 リアンの怒涛の言い分に、しかしシエスタはというと、


「つまり、弟くんのしたいことだったらお姉ちゃんは否定できない訳ね」

「なに企んでるこの悪魔⁉」


 邪悪な笑みを浮かべた。まるで、悪魔が如く。


「お姉ちゃんはこう言ってるけど、弟くんはどうしたい?」

「ええと、僕は姉さんを守れるなら何でもいいです」

「なら一生お姉ちゃんの傍から離れちゃダメよアノン。それこそ密着するくらいに一緒にいて!」

「お姉ちゃんはもうちょっと黙っててね~。――【ロック】」

「アナタそれでも王家の人間に対する騎士の発言⁉ ……もごご~~~~~~~~っ!」


 触れた対象を数十秒間拘束するスキルを使って強制的にリアンを黙らせるシエスタ。


【ロック】というデバフスキルを使えるのはかなり高レベルかつ貴族の者だけだ。それを扱えるということは、シエスタという女騎士はそれほど地位の高い貴族の生まれで極めてレベルも高いと理解させられる。


 わずかに気圧されながら、


「僕は、姉さんには返したくても返しきれない恩があります。だからこそ僕は、せめてこれから歩んでいく姉さんの道を切り開いてあげたいと思ってます」

「むごご――っ!」


 姉が何か言っている。たぶん、そんな事気にしないで、と言っている気がした。

 姉はそう言っているけれども、これはアノンにとってはチャンスなのかもしれなかった。


「僕は、姉さんをこの先も守っていきたい。姉さんが強いのは知ってる。でも、姉さんには笑っていてほしい」


 笑顔が素敵な人だから。

 そんな姉に、他人の汚れた血は似合わない。

 その血を浴びるのは、その血を流すのは――死神の務めだ。


「僕は姉さんを傍で守れるなら何でもやります。騎士でも人殺しでも。そのチャンスをアナタがくれるなら、むしろ望むところです」


 覚悟を決め、その眦を向けるアノンに、シエスタはふふ、と口角を上げると、


「なら決まりね」


 そう満足そうに呟いたのだった。

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