第19話 『 騎士団への勧誘 』
それから一時間ほど鍛錬を続けていると、
「うおっ。なんかここだけ温度が違うと思ったら、何やってるの?」
と誰かの声が聞こえて鍛錬を中断すれば、
「あ、不審者」
「誰が不審者だっ⁉ 正真正銘アナタの友人でしょう!」
リアンが眼前の女騎士に向かってそう言えば、女騎士はポニーテールを振りながら癇癪を起す。
その光景に、アノンも「あ」と声を上げた。
「この前の女騎士さん」
思い出せば、女騎士――シエスタはや、とアノンに手を振った。
「この間ぶりね弟くん。元気してた?」
「はい。えーと……」
名前が分からず戸惑っていると、それを察したのかシエスタが名乗った。
「そういえばきちんとした挨拶はまだだったわね。私の名前はシエスタ=アルフォート。シエスタでいいわ」
「シエスタさん」
呟くように言えば、シエスタは「よろしくね」と柔和な笑みを向けた。
初めて会った時の印象は『少女を連行しようとする悪い騎士』という印象だったが、こうして改めて話してみると『優しい人』に感じた。
「この間はいきなり襲い掛かってごめんなさい」
「気にしないでいいわ。私も、弟くんの強さも少し知れてよかったし」
頭を下げれば、シエスタは言葉通りアノンの無礼をあっさりと見逃した。
「いい人だね、姉さん」
そう言えば、途端姉は口をわなわなとさせて抱きしめてきた。
「ダメよアノン! そんな気軽に女に惚れちゃ! しっかりと相手の内面をみなさい! あの女は騎士のくせにサボり魔のろくでもない女なんだから!」
「ちょっと友人を貶すのもいい加減にしなさいよアナタ! 弟くんもブラコン姉ちゃんの言葉なんか信じちゃダメだからね!」
「ええい! だまらっしゃい! アナタがサボり魔でズボラなのは事実でしょ!」
「さらりと要らない情報を追加すんな! 私はズボラじゃなくて休日はゆっくり休みたいだけ!」
「いつも仕事してしてる振りして休んでるでしょうが!」
なぜか口論を始めてしまったリアンとシエスタ。
そんな様子を呆気取られながら見ていると、
「……二人って、仲いいんだね」
「「仲良くない!」」
否定するも、そのタイミングも息ピッタリなのでやはり仲はいいらしい。
照れ隠しなのかな、と二人に微笑みながら見守っていれば、
「……くっ。天使の笑みに免じて、今回はこのくらいにしてあげるわ」
「……そうね。この穢れを知らない純粋無垢な笑顔を見れば、世界から戦争なんてなくなりそうね」
「あら。アナタも私の弟の可愛さに気付いたようね。でも残念、アノンは誰にも渡さないわ」
「……ブラコンお姉ちゃんから弟を奪うのは面白そうね」
また口論に発展する気配がしたので、アノンは話題を強制的に切り替える。
「あ、あの……シエスタさん。今日は何か、要件があって来たんですよね?」
そう促せば、シエスタは「そうそう」と手を叩いた。
「こんなブラコンの相手をしてる場合じゃなかった」
ブラコンで何が悪いっ、と犬歯を剥き出しにするリアンは無視してシエスタが続ける。
「今日来た目的はね、アイリス様について」
「アイリス!」
ずっとその後を気になっていた少女の名前がシエスタの口から挙がって、アノンは思わず声を上げた。
そんなアノンに、シエスタは「まだ続きがあるから聞いて」と朗らかな声音で静止させつつ、アノンに顔を近づけた。
何事かと思って身構えれば、シエスタはしばらく無言でアノンを見つめたまま、やがてニコッと笑うと、
「――弟くん。騎士団に入ってみる気はない?」
「――ぇ」
突然のシエスタからの提案に、アノンは目を瞬かせる。
そして、それを隣で聞いていたリアンはというと、
「な、ななななななな……っ」
まるで壊れた機械仕掛けの人形にみたく口をわなわなさせながら、
「絶対にダメ――――――――――――――――――ッッ⁉」
とアノンを抱きしめながら全力で拒否するのだった。
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