第4話 『 ならず者は今日も騒がしい 』
そこは、罪人が生きる場所。
「たくっ。何時になったら、俺たちは陽の光を浴びられるのかねぇ」
「口を動かす暇があったら、さっさと土を削るんだな」
「てめぇは相変わらず癪に障る言い方する野郎だな」
「事実を言ってるまでだ肉団子」
一触即発の空気も、ここでは日常茶飯事だ。
男の発言に肉団子と罵倒された巨漢は眉をピクピクと動かすも、振り向かないせいでそいつの顔をぶん殴れず舌打ちするしかなかった。不服そうに、作業に戻る。
カーン。カーン。金属性のスコップが硬い土をひたすら砕く甲高い音が絶え間なく洞窟になり続ける。まさしく陽の光の届かない真っ暗な洞窟は、感覚的に吊り下げれたランプの微かな灯りだけが頼りだった。
「はぁ。飽きた。肉食いてぇ。酒飲みてぇ。女抱きてぇよぉ」
「キッショ。ていうか、そんなの私たちには無理でしょ。人殺したからこんな場所にぶち込まれてるんだから」
巨漢の不満に応じたのは、彼に比べて二回り以上小さな少女子だった。
少女は苦笑しながら、己の纏う囚人服――今は作業服を抓んで口を尖らせた。
「でもさぁ。この囚人服、チョーダサいよね。この雑草みたいな緑一色とか、控えめに言って王国のセンスなさすぎ」
センスがない上に少女にはサイズが合わないせいで余計に不格好だ。どこかを縛らなければずり落ちてしまいそうなくらいにはぶかぶかだった。服がはだければここに自分と同じよう牢獄にぶち込まれた男どもの欲求の捌け口になってしまいそうだが、生憎と少女はまだ処女だ。何もかもがなかった人生で、人から物を奪い奪われてを繰り返しながら、唯一、少女がまだ誰にも奪われていないのがこの純潔だ。だから、こんな牢獄でそれを奪われたくないし、そんな危険が及べば少女は容赦なく
そんな少女に、巨漢はハッと鼻で笑った。
「お前みたいな泥娘で犯罪者が何を色気づいてお洒落なんて語ってんだ。このスコップで頭カチ割るぞ」
「はっ。やれるものならやってみろよ、肉団子。そのまま鍋にでも突っ込んでやろうか。今日の晩飯はごちそうだな」
巨漢の罵倒に、少女は年頃の女を捨てた口ぶりで皮肉たっぷりに返す。
挑発には挑発で返す。それが、蛮族というもの。
ザクッ、ザクッ、と両者は穴を掘りながら、その時を待った。
そして、ピタリと穴を掘る手が止まった時だった。
「オラァァァァァ‼」
「肉団子食わせろやぁぁぁぁ‼」
両者の視線が交差すると同時に火花が散って、土を削ぐ為に用意されたスコップを凶器として力の限り振るった。当然、相手を本気で殺すつもりの勢いで。
咆哮と怒声の掛け声と共に振るったスコップがぶつかれば、けたたましい衝撃音が空気を震わせる。此処にはなぜか監視員がいないから、思う存分、相手が降参と泣き言を吐くまで
「ヌハハハハハッ‼」
「アッハハハハ‼」
粉塵が巻き起こるほどに激しい攻防に、丁度この作業にも飽きてきた他の囚人たちが
「いいぞー、もっとやれ‼」「血ィ出せや‼」「押されてんぞ肉団子ォ」「クソガキ頑張れヤァ!」
誰も、この喧嘩を止めない。何故ならば、止める理由がないから。
「肉団子つった奴後でぶっ殺すからな‼」
「クソガキっていった奴もぶっ殺すから‼」
犬歯をみせながら、二人は攻防の最中に罵倒したやつに向かって宣言する。
「はぁ。どうしてうちの連中はこんなにも血の気が多いのか」
少女と巨漢の攻防に興味がない男は、一人だけ土を掘りながら嘆いていた。そんな彼の声は、スコップが衝突する快音と熱狂で聞こえることはない。
罪を償う為に仕事をしている。が、たまには息抜きが必要だろう。その休息が、彼には命の削り合いというだけで。
「やっぱ殺し合いはおもしれーなぁ! ――ブハハハハハハ‼」
「だね! アンタは殺し甲斐あるからすっごい楽しい! ――あははははは‼」
今日も、ならず者たちは地獄を楽しむ。
ならず者どもの一日は、こうして過ぎていくのである。
―――――――
【あとがき】
今話までがこの物語の中心人物たちの紹介になります。次話から本格的に物語が始まりますので、少しでも面白そう! と思ったらブックマークがオススメですよ。
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