第16話 出会ってしまった2人!?



「良いもの買えたっ……!」


 今日は待ちに待った入金日。

給料と違って頑張った分、それが収入に反映されるのって結構嬉しかったりする。


 そして入金日には、我が家の勘定奉行"李里菜"様からお許しが出るのだ。


『今月、一本3000円のワインOK!』


 そこで購入したのがずぅっと欲しかった赤ワイン。


 李里菜、きっとこういうワイン好きだろうなぁ。

早く飲ませてやりたいなぁ。きっと幸せそうな顔をしてくれるだろうなぁ。


 と、考えていたところスマホへメッセージが。

タイミングよく、李里菜からだった。



"李里菜"


今夜、お友達を家へ呼んでも良いですか?



……李里菜、ちゃんと友達がいたんだ。

李里菜と同居を初めて、早数ヶ月。

いつも俺より早く家に帰ってきているので、交友関係は大丈夫かなと心配していたけど……ホッとする反面、なんとなく寂しいような気も……


"李里菜"


やっぱりダメ、ですよね。ごめんなさい……



おっと、俺としたことが! 既読スルーをしてしまっていた。



"智仁"


良いよ! 家事は大丈夫だから、今夜はお友達といっぱい楽しんで!


"李里菜"


ありがと! 三人、来る!



 今夜は外食すべきなんだけど、急ぎでまとめないといけない資料もある。

李里菜たちを邪魔しないよう、今夜は自分の部屋に引きこもろう。

さっき買ったワインは、後日で良いかなぁ。


●●●


「ただいま」


 玄関には既に、いつもより多く靴が置かれていた。

サイズ感から多分みんな女の子。

一瞬、男がいたらどうしようと思っていたけど、杞憂だったようだ。


 さぁて俺のようなおっさんはさっさと部屋へ退散……


「お、お帰りなさいっ!」


 部屋へ入ろうとしたその時、颯爽と廊下の向こうから李里菜が姿を表す。


「おう、ただいま」


「今日はありがとう、ございます!」


「いえいえ。ゆっくり楽しみな。邪魔はしないから」


「みんなっ!」


 李里菜はリビングへ向かってそう言った。


「は、初めましてです! 石黒 寧子と申しますです! 今日はありがとうございますです!」


「……もしかして李里菜のお友達って?」


 ああ、李里菜……お友達って……近所の公園で遊んでいた小学生なんだね。

やっぱり李里菜にはもっと普通の生活を……でも、待てあとの2人は……?


「田崎 クロエネ! メルシーネ!」


 メルシーって、フランス人!? いやでも、ちょっと顔立ちが日本人ぽいような……


「突然、大人数で押しかけてすみません! 森 沙都子です! お会いできて光栄です!」


 なんだぁ!? この少し大人っぽい子の胸の膨らみは!?

 でも、いるんだ。グラビア以外で、こんなにも立派なものをお持ちの子って。


 小学生に、フランス人に、そして立派なものをお持ちの子……なんてバリエーション豊かな!


「み、みんな、サークルのメンバー! ワインラバーの会!」


「ワインラバーって、李里菜、お前、まさか……?」


 李里菜は頬をほんのり赤く染めて、コクンと頷く。


「トモのおかげで、ワイン興味持った。そしたら大学で寧子と、クロエと、沙都子と知り合えて、仲間にしてもらえた。あ、ありがと……!」


 じんわり胸が熱くなり、目頭に薄ら涙が浮かんだ。

そうか、李里菜はワインに興味を持ってくれたんだ。

自分の好きなことに、誰かが影響されて、こうして興味を持ってくれるのって、本当に嬉しい。


「トモ、泣いてる……? 私、ワイン好きになるの嫌……?」


「んなわけあるか! ちょっと今日は、なんかの花粉でも飛んでるのかな、あはは!」


 よぉし、1人で飲もうと思っていたこのワインだけど、李里菜たちにあげちゃおう!

きっと良い思い出になるはずだ!


「そ、それで、お願いが……」


「ん?」


「あの、えっと……もしも、トモが忙しくなかったら……みんなにワインの話、してあげてほしい。麗国ホテルで働いてたトモの話、みんな聞きたいって……」


 李里菜は遠慮ぎみにそう聞いてきた。

後ろの三人も、俺へ期待の視線を寄せている。


 こうして李里菜やその友達が話を聴きたがっているんだ。

無碍になんかできるはずもない。


「おう! お安い御用ーー」


 と、その時インターフォンが鳴り響いた。


 んだよ、こんな良い雰囲気の時に……少々うんざりしつつ、玄関を開くと……


「こ、こんばんは! 緑川さん! 突然の訪問、大変申し訳ありません!」


「日髙さん!?」


 玄関先に居た日髙さんは深々と頭を下げていた。

そして突きつけるように、抱えていた紙袋を差し出してくる。


「これまでのお礼を含めて、今夜は私が晩御飯をと思いまして! もし、よろしければ上げてください! お願いしますっ!」


「お客さん……?」


 すると俺の肩越しに、ひょっこり李里菜が顔を出す。

瞬間、日髙さんの表情が凍りついた。


「あ、あなたは!? たた、大変失礼しました! まさか、ご一緒だったとは……」


「一緒もなにも、同居しているんだけど?」


「ど、同居!? ああ、もう、姫ちゃんのアドバイスなんて真面目に聞くんじゃなかったぁ……!」


 日髙さんは頭を抱えて蹲ってしまう。

 もしかしてこの人、何か大きな勘違いをしているような。


「あの日髙さん、俺と李里菜って、君が考えているような関係じゃないけど?」


「へっ……?」


「この子姪。俺、叔父。事情があって今、一緒に暮らしているんだ」


「そうなんですね! そっか姪っ子さんだったんだ……!」


 日髙さんの表情がぱぁっと明るむ。

どうやら誤解は解けたようだ。

 そうだ、こうして日髙さんも来てくれたことだし!


「日髙さん、遠慮せずに上がってってよ!」


「い、良いんですか!?」


「実は丁度、李里菜とお友達へワインの話をしようと思っててね。日髙さんも一緒にぜひ!」


「はいっ! よろしくお願いします!」


「良いよな、李里……ッ!?」


 李里菜は俺を軽く押し退けると、ズンズン日髙さんへ近づいてゆく。

ちょっと、怒ってるのかい、李里菜さん……?


「初めまして。緑川 李里菜と申します。トモがいつもお世話になっております」


 李里菜はやや早口気味にそう挨拶をすると、最敬礼をして見せた。


「どうもご丁寧に! 日髙 ゆうきです! お仕事で、いつも緑川さんにはお世話になっております! 今夜はよろしくお願いたします!」


「友達も日髙さんの参加をとても喜んでいます。ご遠慮なくお上がりください」


「は、はい……」


 李里菜、実はああやって普通に喋ることもできるんだな……さぁて、急いで準備をしないと!

 俺は資料やグラスを用意すべく、部屋へ戻ってゆく。


「OH……まさにNice boatネ……!」


「Nice boatって、クロエよく知ってますですねぇ……」


「良い船? いつものオタク用語? なんだろ……」


「し、知らないなら、知らない方がいいのです、沙都子ちゃん!!」


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