第15話 エピローグ
それから暫く経った、とある日の放課後。
私は図書室でお目当ての姿を見つけ、声をかける。
「アルくん」
「リューコさん。ごきげんよう。どうしたんですか?」
読書を中断し、顔を上げた彼の名はアルテミス・ケプラー。
ピーコックブルーの髪を後ろでちょこんと縛り、長めの前髪と眼鏡で明るいオレンジ色の瞳が隠れがちになっている美少年だ。大人しくてマイペースだけど優しいし、一緒にのんびりお茶を飲みたくなるタイプ。
「ごきげんよう。あのね、カナメが先生に捕まってお手伝いに駆り出されちゃったのよ。それで『時間かかりそうだから先に帰って』っていう伝言を頼まれて」
「ああ、そうなんですね。分かりました。わざわざありがとうございます」
そう答える彼は軽く微笑んで会釈し、再び読書に戻ろうとする。
「帰らないの?」
「カナメさんは手伝いが終わったら一応ここを覗きに来ると思いますから、それまで待っています」
「そっか」
つまり、先に帰る気はないと。ラブラブだなこれ。
私はついニヤけそうになるのを奥歯を噛みしめて堪え、挨拶をして踵を返した。アルくんは掴みどころのない雰囲気もあるけど、カナメに対する愛情はしっかりと感じられて嬉しくなる。
彼は占いで出た、カナメの結婚相手(十中八九)だ。風属性だし魔力は高いしマイペースで動じないし、日本茶の似合う癒し系だから確定だと思っている。
そんなアルくんとカナメの出会いは図書室。最初の話題は以前図書室に木霊した私の悲鳴だそうだ。
何を隠そう彼は、私がニジマスカップルを覗き見していた時に遭遇した男子生徒だったのである。醜態とはいえその話題が二人の会話を繋ぐことができたのなら、私の野次馬根性も無駄ではなかったということだ。うむ、いい話である。
さて、伝言の任務は終えた。私もリルの所に行こう。
(やっぱりナギくんの占いって凄いよねえ)
鼻歌まじりに通路を進みながら、そんなことを考える。
私の占い結果には「火の鳥」というワードが入っていた。だからお相手は火属性だと思い込んでいたのだけど、どうやら火の鳥とはフェニックスのことを指していたらしい。
そして火にばかり注目していたが、ナギくんは「豊かな大地に愛されている人」だとも言っていたのだ。豊かな大地というのは、食料生産能力が半端ないフェニックス王国の土地を示していると思われる。シルフィード王国も、お隣りから農産物の輸入を沢山してるからね。それに土に愛されると言えば土属性。
すなわち、占いでの私の結婚相手は(十中八九)リルだった。
これに気づいた時は、気が抜けすぎて崩れ落ちた。寮の自室で誰もいなくて本当に良かったと思う。
リルは私の野望を聞いても、不快を表さなかった。
それどころか、あっという間に母を匿ってくれた。
ネレウスさんの協力もあり、何ともスムーズに、母は数あるベティウガイザ公爵家の別邸の一つで暮らすこととなる。めちゃくちゃ恐縮して震え上がる母を気遣い、この別邸には必要最低限の使用人しかいないという特別待遇付きだ。更には私まで一緒に住まわせてくれている。
ビフレスト男爵家とも瞬く間に縁が切られ、私は母方の姓、つまり平民だった頃のリューコ・ロディアを名乗ることになった。それでいて未だ学園に通えている最大の理由は、貴族レベルの魔法が使える為である。それ以外の理由はもう余り覚えていない。
何故なら目まぐるし過ぎる
(とにもかくにも、リルと一緒にいられて嬉しい)
大好きな彼の顔を思い浮かべると、通路を行き交う生徒達の間をすり抜ける足が自然と早くなる。
と、そこへ。
通り過ぎた後ろから、独り言のような声が耳に届いた。
「なるほどね。ピンク色の髪はヒロインの証か」
「!?」
その言葉に思わず立ち止まり、私は勢い良く振り返る。しかし周囲には人が多く、誰がその声を発したか分からない。ただ、とても綺麗な音で男性の声だった。
(ああいう、人気声優みたいな声を持っていそうなのは…)
そう考えながらきょろきょろと辺りを見回した時、目に留まったのはニジマス主要キャラであるヘリオスくんの後ろ姿。揺れる金髪のポニーテールが眩い。
きっと彼が言ったのだ。私の髪を見て。
「………」
えっと、うん。そうだね。
何故ヘリオスくんがそんなことを口にしたのかは、ひとまず置いておく。
私はニジマス世界のカラフルで美しい髪色達を、しょっちゅう眺めている。目の保養なので。だから、よーく記憶している。自分以外でピンク色の髪をした人は、第一部ヒロインのイーリスちゃんしか見たことがないということを。
つまり第二部の、ニジマス世界における二人目のヒロインとは。
この私。
「えええぇええ!!!??」
またしても木霊する私の叫び。
屋外の為、解き放たれたように響きが伝わっていく気がした。
私がニジマス第二部を知らないのは、自分で創り上げていく物語だからなのだろうか。
「リューコ!」
「!」
悲鳴は一体どこまで届いたのか、私を呼ぶリルの声が聞こえてきた。
でもその足音が嬉しくて幸せで、だからもう何でもいい。
「リル、大好き!」
満面の笑みで手を振りながら告げると、リルはぴたりと足が止まって固まる。
そんな彼が愛しくてたまらない私は、人目もはばからず駆け寄ってリルに抱きついた。
ニジマス第二部はフェニックス王国編もあるのよ!
なあんて思いながら。
<了>
物語終了してる漫画世界だけど今から続編なので生きる しぷりん @shipurin
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