第6話 婚活スポット

 今日は学園内の演習場に来ていた。放課後はよく、魔法の課外講習や自主練に使われている。その場で先輩方に指導を受けられる場合もあり、実のところ出会いスポットの役割も大きい場所だ。


 カナメは用事があって一人で来たが、ここまでの道のりはいつも人通りが多いので問題なし。演習場はだだっ広いけど人の姿はそこかしこにあり、万一の時には助けを求めることができる。


 という訳で安心して婚活に来た私は、ふと目についた先輩の講義に混ざっていた。



「…そういった方向からイメージすると魔法発動も容易になり、消費魔力を抑えることができるんだ」


 人だかりの中心で丁寧に解説をする彼は、最高学年の三年生。なんと世界でも数えるほどの家系にしかいないとされる、万能な光属性を持つ人だそうだ。

 そうした光属性の設定は勿論知っていたが、漫画では見たことがない顔だったので正直驚いている。ニジマスで光属性を持つのはヒロイン、王族、魔法大臣の家系のみ。魔法大臣の息子は主要キャラだけど、この先輩ではない。


(第二部の新キャラかな)


 光属性は大変稀少な存在だ。それを有する家系が前述の人達以外にいるとなれば、これは重要人物と見ていい気がする。イケメンだし目立ってるし、ニジマス鑑賞としてリストアップしておこう。


「では広がって、各々試してみてくれ」


 先輩の言葉に周囲の生徒達が散らばっていく。視界が開けた先にいる彼は、やや茶色を帯びた金髪のミディアムヘアに青い瞳。背が高くてがっしりしており、豪快な印象だ。先ほどまでの話し方から、細やかな気配りができて優しい人だとも察せられる。


 うーん、惜しい。

 ニジマス主要キャラ(推定)でなければ、婚活対象にしたい優良さだ。


(でも私の結婚相手って火属性っぽいし、どのみち関係ないか)


 先日の占いで私は婚活成功の未来を喜ぶあまり、うっかり結婚相手の具体的な特徴を聞きそびれている。まあそもそも結果の妄信を避ける為に、さほど詳しくは教えてくれないが。


 ただ、ナギくんの視たイメージが「火の鳥」とのことなので、普通に考えて火属性を持つ人だろうと予測はできた。目の前の先輩は光属性だから、その時点で私のお相手ではないことになる。


 ん? 目の前?


「失礼、説明が分かり辛かったか? 疑問点があれば何でも聞いてくれ」

「いっいえ、ちょっと頭の中で整理していただけです。どうぞお構いなく」


 ぼうっとしていたからか、知らぬ間に先輩が近くにいて焦った。まさか婚活のことで頭が一杯だとは言えず、個別対応は不要だと慌てて首を横に振る。


「そうか、ならいいが。何かあったらいつでも受け付けるからな」

「はい。ありがとうございます」


 にっこり笑う先輩は気さくなのに紳士な佇まいで、爵位の高さを感じさせた。

 爵位はおろか名前すら知らないけど、やはりニジマスを彷彿とさせる好青年だと思う。因みに学年と属性については、先ほどそばでお喋りしていた令嬢達からの情報だ。


「ベティウガイザ様、質問宜しいでしょうか?」

「ああ、今行く」

「えっ」


 他の生徒から呼ばれて応える先輩に、私は思わず声を上げる。


 今、ベティウガイザって言った?

 ってことはまさか、この人は。


「どうした? 何かあれば先に聞くが」

「あ、あの、もしかして、リルのお兄様ですか?」

「ああ、君はリルの友達か。私はリルの兄でネレウス・ベティウガイザだ。弟が世話になってるな。これからも仲良くしてやってくれ」


 マジか。

 リルのお兄さんなら第二部の新キャラ確定じゃん。


 というか、兄弟の話なんて全く聞いたことがなかった。

 全然似てないな。兄のほうはツンデレのツの字も見当たらない。


「リルと同じクラスのリューコ・ビフレストです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 驚きつつも何とか笑顔でカーテシーをする。



 爽やかに笑って踵を返すお兄さんを見送ったこの日は、それ以上の出会いが訪れることはなかった。

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