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魔女は借りた(泊まりはキャンセルした)部屋に行くと、知恵の板から通信、魔女ベンチャーギルドに繋いだ。
ALL:ヘプラ、森の道をお願いしたい。眠りの魔術師さんの町まで近道したいシャミ。
ヘプラ:1024番目の木を左で行けるヨー。今どこカナー?
ALL:鈴の扉の町の極海亭ってところ。
ヘプラ:ソッカー。それジャネ、宿に苗木届けさせるカラ、ソレをつかうとイイヨ。
FANIR:えー、シャミーこっちに来ないのかよおい。南は映え映えだゾよ
ALL:なんか眠りのナントカと御縁できちゃって。
ALL:あとやばそうなちんぴらとも。わりとピンチ。
ヘプラ:シャミちゃんに声かけてきたノ? エチチかな?
FANIR:ナンパっすか、さりジマっすかパイセン。
ALL:おせっかい?
ヘプラ:「」
FANIR:うけるー
ポチポチと通信しているうちに、ママさんから声がかかった。
どすんどすんと、廊下を歩く振動が部屋まで響く。
そして大男が荷物を持って部屋を訪れた。
「耳の長いのが、これを持ってきたぞ。バルドルが鑑定済みだ、危険はない」
「丸いおじさん、鑑定できるシャミね」
「かなり重いぞ。出すなら手伝うが」
「ありがたいシャミミー」
なにげに、この大男さんが一番好みだった。一日も欠かさず鍛錬してきたであろう筋肉は得難い至宝だ。さて、荷物を開くと、二本の観葉植物が入ってあった。
「助かります。大男さん、なんか願い事はありませんか? シャミーで叶えられるものならお伺いしますよ」
「無い。ただの肉の礼だ」
なんともこそばゆい。食事中断の補填のつもりだったのだが。
「甘えついでに、この植物はお店の中でも外でも飾れますので、ママさんにお願いして天寿をまっとうさせてあげて欲しいシャミ」
「まあ、かまわん。頼むだけなら」
「ありがとうございます、バルドルさんと痩せたお兄さんにもよろしくシャミ」
並べた植物の間と、周りをうろうろと歩くと、やがて魔女の姿は部屋から消えた。
森の道は木と木の繋ぐ経絡で、入り方を知っているものには近道であり、抜け道になる。消える際に大男の顔が見えたが、相変わらずの仏頂面だった。
木の術の上位魔法〈
◇◇◇
そして一刻が過ぎた。
バルドルは、大男ことブルーヒルから報告を受けていた。
ジョウは裏口に潜んでいた奴を纏めて相手をしていることであろう。
外にでると、人相の悪い男たちと、へらへらと談笑していた。
「魔女は行ったぞ。手紙を預かっている」
「そうかい。おうい、お前ら解散、解散! ここにもうお嬢様魔女はいねーべ?」
なんだそれ、金返せ、と抗議の声が上がる。
「知るかバカタレども! あー、あー! うそうそ! 魔女からもらった金あるからよ、これを山分けってことで手打ちにしてくれよ!」
掴みかかられながらも、ジョウはブルーヒルから手紙を受け取った。
『お仕事を完璧にこなしてくださりありがとうございます。裏口から出てもよかったのですが、人が多そうなので別のところから町を出ました、かしこ』
「あらま。お見通しってか。つっても、グルってわけじゃねんだよー? 信じてくれよー?」
ジョウの髪が引っ張られ、服も伸びる。
「闇を統べる魔女より、ねえ。たいそうな二つ名だこと?」
ならず者たちを振りほどきながら、バルドルに手紙を渡す。そのどんぐり眼で鑑定をする。
「遠見の術がかかっているな。魔女殿、見ているぞ」
「南に行こうと思ってたんだけどな。北は眠りの魔術師のほうが面白そうかあ? ……かあー! しつこいぞお前ら、わーったよ、奢りだ、極海亭の酒飲みつくすぞ馬鹿野郎!」
そう来なくちゃな、と調子に乗る輩を蹴飛ばし、振り切りながらブルーヒルに流し目をやる。
「姐さんに連絡だ。‘眠りの魔術師と事を構える’なんておっかねえ依頼はよぉー、とんずらかまそうかと思ってたけどよ。俺も北に行く」
「了解だ、ジョウ」
ここにきて、ようやくブルーヒルに笑みが浮かんだ。
姐さん、ね。何人か思い当たる人物はいるけど、今は確信に至る材料がない。
百識の魔術師である自分に、多少は驚かせてくれる人物であればいいのだけど。
とりあえず、自分ではない。アドベンチャーギルドに所属しているなら。
ふむ。あの人かな。
◇◇◇
セージギルドの主、アオギリは書簡を手に震えていた。
『友人に木を二本、贈りたく思います。手配をよしなに
闇を統べる魔女が眠りの魔術師に会いに行くようです』
「家宝にするしかないね、これは」
森の王の直筆の手紙を、宝石箱より豪奢な箱に入れ、棚にしまった。
同じく装飾された箱を開くと、そこには3片が欠けたはっさくが入っていた。
何年たっても腐らないそれは。魔女には話していない続きの話だ。
騒動から後日、眠りの魔術師から送られてきたはっさくだ。作ってみた、とだけ手紙が添えられていた。これを超えられる味をいまだ作れていない。
(私は……勝ってなどいないんだよな、実は)
もう、その執心は。魔女に託したことだ。商人の分をわきまえようと思う。
「会いに行くってねえ……まさか、倒そうっていうんじゃないだろうな」
いや、もう、託したことだ。何度も振り払い、忘れようと試みた。あの魔女との出会いには大きな意味があったかもしれないが、自分は降りさせてもらった。
執心の証である、眠りの魔術師の作った永劫はっさくを全て平らげ、闇魔女の勝利を主人は祈った。
◇◇◇
どっと疲れが出たので、星の目も蛇の目も断ち、執政室を後にした。
「まさか躊躇なくエルフの王女に助けを求めるとは。我が影法師ながら判断が早い」
もたれかかったコンクリートの壁はひんやりしていて気持ちがよかった。数歩進み、ウォーターサーバーのある休憩スペースのソファーに腰かけた。観葉植物に目をやると、案の定、テレパシーが飛んできた。
『なんであなたが出張っているの?』
〈
「木門の魔術師にハーブティーの用意をさせたのですが。どうしてここにあなたの分隊がおいてあるのかな。私が首を突っ込む理由などただ一つ、王命を受けたからです」
『魔女ベンチャーギルドはシャミちゃんと私とファーニルの遊び場よ? 大人が干渉するのは、面白くないよ』
「千客万来じゃありませんでしたか?」
それに、言うほど貴女は子どもではないでしょうに。
『歌姫と書いてアイドルは大人に入らない』
「確かに。失言でしたね、永遠のセンターの貴女」
テレパシー中だった、心の声まで拾われてしまう。
『からかうものではないわ』
「重ねてご無礼を申し訳ありません。闇魔女本人に干渉するつもりはありませんよ、助力もあの子には不要です」
ウォーターサーバーの煮沸が終わった。ビターオレンジのハーブティーを入れて疲れた心を落ち着かせる。
「……おいしい。ヘプラ様、もしやあなたがご用意してくださったの?」
『つーん』
「是非とも殿下にもご賞味いただきたいですね、注文させていただいても? どちらに入金すれば」
『えーっとねー……あっ! 危ない! そうやっていま、私の居場所を探知しようとしましたね?』
「ああ、ばれましたか、さすがですね」
『油断も隙も無いわ! とにかく! シャミーに過干渉したら、ただではおきませんからね、そこを重々、紅茶を味わうより深ーく、噛み締めてくださいまし!』
紅茶を嚙んで味わう習慣はございません。
とはいえ、断られてしまいましたか……
仕方がありません、分析して自分で作るとしましょう。
フィン殿下、とっておきのお菓子と一緒にご用意致します、必ず!
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