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「パスカル。駅だよ」

「言われなくても認識している」


 線路が見えたので予感はあったが、巨大な屋根が陥没した建物には辛うじて『駅』と読める文字が残っていた。電車が入るホームだけがしっかりとその形を当時のまま留め、後は線路も案内図や自動販売機も、何もかもが倒壊している。

 表にあった案内板はこの街の観光スポットなどが描かれていたのだろうが、ほとんど染料が見えなくなっており、かといって仮に当時のままを再現できたとしても、すっかり様変わりした街の案内には役立たないだろう。

 駅前には商店らしき建物の残骸も幾つか確認できたが、損傷が酷く、また建物そのものは残っていたとしても中は瓦礫がれきで埋まっていて、役立ちそうなものは見当たらなかった。


「ねえパスカル」


 民家と民家の間の、狭い路地だった。瓦礫で高くなっているが、その積み上がっているものがパラパラと崩れていた。その向こう側に何かがいたのだ。


「西側に離れている」

「だからさ、追いかけるんだよ」


 パスカルの頭を軽く叩くと、ロイドは駆け出す。

 傾いた家と家の隙間をゴミとしか呼べない瓦礫の山が塞いでいる。けれどその影は慣れた様子で素早く移動し、ほとんどロイドたちにその姿を捉えさせない。

 それでもパスカルのセンサはしっかりとその跡を見つけ、ロイドを先導していく。彼はその個体の熱量からして相手はロボットではないだろうという見解を示した。それについてはロイドも同意だったが「見れば分かるよ」という言葉を呑み込み、パスカルの背を追いかける。


 ――きっと何かの生き物だよ。


 ロイドは久しぶりにわくわくと胸踊る境地を感じていた。


 住宅街を抜け、片側一車線の道路を走る。それは緩やかに傾斜し、やがて小高い丘の麓に建つ、不可思議な建造物を出現させた。

 最初それは門だと思われた。だが形状がパスカルの持つデータとは合致しない。装飾こそないものの、直立する二本の柱の上部に渡すようにして更に二本、梁のようなものが取り付けられている。


「これはかつて鳥居と呼ばれていたものの形状に酷似している」

「ああ、それなら聞いたことがある。日本という国で神様を祀っていた施設の玄関にあるものだ」


 その金属製の鳥居は十度ほど左側に傾いていたが、それでも立派にまだその姿勢を保っている。ロイドとパスカルは巨大なそれを見上げながら潜ると、何枚も剥がれて露出した地面から草が生えている石畳を歩いた。一分と進まない内に再び金属製の建造物が姿を現す。


 ――神社。


 そう呼ばれていたものだろうと、パスカルの解析結果を待つまでもなくロイドは思った。

 本来なら全てが木で造られていたものだが、柱も、壁板も、扉も、斜めに湾曲した屋根も、そのどれもが金属で出来ていた。明らかにシェルターとしては向いていない形状だし、そもそも構造として以前に何故そこまで神社というものを再現することに拘ったのか、パスカルでなくとも「理解に苦しむ」と漏らすことだろう。

 その扉が、わずかに開いていた。


「罠ということはない?」

「熱源は探知できない」

「それは危険がないという意味ではないよね?」


 ロイドは苦笑し、てとてとと四本の足で歩いていく彼に続いた。

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