第9話
アルカはスチールをぎゅっと抱くと、語りかけた。
「ごめん。君は僕が生まれた時からずっと一緒にいる、とても大切な友達だ。でも彼女を犠牲にするわけにはいかない。スチール……ロケットに変形」
「ラージャ」
ガチャリガチャリと外装を縦に伸ばし、足からノズルを出すとロケットの形状に変形した。
「スチール、上空から飛んでくる爆弾を破壊してほしいんだ」
スチールはしばらく無言のまま静止していたが、いつもと違う柔らかな口調で返答した。
「らーじゃ」
ノズルが白い煙を吐き、やがて激しい炎を吹き出すと、そのまま垂直に上昇して空の彼方へと飛び立っていった。
ステールが見えなくなってしばらくすると赤い雲が一瞬光り、ずずんという鈍い音が空で唸った。
アルカは垂れてくる鼻水を拳で拭うと、エリスにまっすぐな視線を向けた。
「大切なものをひとつ失ってしまったけど……これで運命が変わる。母さんに連絡しよう」
二人でガレージに戻ると、アルカはミーシアに呼びかけた。
「母さん、なんとか爆弾は食い止めた。そっちの進み具合はどう?」
――完成したわよ。大量に製造した自己増殖型ナノマシン砲弾を大砲に装填して、一気に発射する。見ていて。
アルカとエリスは遠くにそびえる戦艦に目をやると、空に向けて動いていく砲身がかすかに望めた。
ドンドンドンという音とともに砲身から煙が吐かれると、無数の白い軌跡が空に描かれた。やがて軌跡の先端が花火のように爆発すると、拡散してアルカ達が立つ大地の上空を白く染めていった。
空を見上げていたアルカの顔に、ヒヤリとする玉が一粒落ちる。手を前に出すと、手のひらにぽつりぽつりと白い玉が舞い降りてきた。
「これは……雪?」
エリスが腕のゲージに目をやると赤い点滅は消え、青色に変化していた。
「アルカ……見て! 大地が雪に覆われていく」
エリスは両手を広げて走り出し、降り積もる雪に足跡をつけていった。
数日後、空に拡散されたスーパースノーは地球を覆いつくし、大きな雪玉を宇宙に浮かび上がらせた。
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