12月5日 火の国の短剣
書架の国を離れ、世界最北端の国ウルへとやってきました。この緯度でこの季節、さぞ気温も……と思いきや、想像しているほどではありません。火の女神の神域である火山ラガの麓に栄えるこの土地は、周辺よりもちょっとだけ気温が高いのです。
とはいえ雪は降りますから、防寒対策はぬかりなく。まずはあたたかい店に入って一休みしましょう。あ、そこのドア、頭をぶつけ――すみません、もう少し早く言えば良かった。鍛冶妖精ドワーフの国であるこの火の国ウルは、街も小柄なドワーフ仕様。人間の住まいとは建物も家具もサイズ感が違いますから、頭を打ったり腰を痛めたりしないよう気をつけて。
え? 朝っぱらから酒場はないだろうって? 何をおっしゃいます、ドワーフの国ですよ? 酒場以外の飲食店なんてありません。水も注文できません。諦めて呑むか、果物を注文して丸齧りするか、どちらかです。
朝食を済ませたら、お会計。ここでは通貨ではなく金属のそのもので支払うのが特徴です。ですから入国前に、手持ちの銀貨を銀塊に替えておく方がおすすめです。せっかくコインを出しても、真っ二つにして半分返されたりするので。
で、面白いのはここからです。勘定台に置かれている道具を見てください。天秤と分銅、そして短剣。支払い用の地金を渡すと、店主が必要なだけ短剣で切り取って、余りを返してくれます。
金属の塊を、バターのようにスッと切っていましたね。今日のお土産はこれです。ウルトラ切れ味の刃物。短剣、包丁、食事用のナイフ、もちろんロングソードも、なんでもあります。街を歩けば鍛冶屋だらけ、しかもドワーフの売る刃物になまくらなんてありません。どこへ入っても最高品質。しかも経営は雑なのでやたら安価。上手に使わないとまな板を貫通して机まで切れるのがあれですが、護身用の短剣ならば……いや、上手に抜き差ししないと鞘がぶっ壊れますが、とにかく一本持っておいて損は……あるけれども、それ以上にロマンがありますよ!!
この切れ味の秘密は、妖精ならではの不思議技術「魔法鍛錬」によるものだそうです。仕組みはわかりませんが、まあ妖精さんの魔法ということなんでしょう。日数はかかりますが、オーダーメイドで依頼すると、個人の魔力に波長を合わせた武器も作ってもらえるようです。「初めて触るのに不思議と手に馴染む」自分だけの特別な一振りを求めて、世界中から騎士や狩人、冒険家が集まってきます。
そんなドワーフの刃物、一本手に入れてみてはいかがでしょう。ただし怪我には本当に気をつけて――あ、そこ、頭!! ……遅かったか。
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