12月4日 書架の国の竜笛
リオーテ=ヴァラ西部の街、ヴァルネ。アカデミックな雰囲気が漂う都心と違い、郊外にあるこの街はのどかな風が吹いています。森に囲まれ、あちこちにハーブの小さな花が咲き、広場では楽器を持ち寄った住民達が楽しげに小さなセッション会を開いています。
そう、ここは学問の国の片隅にある音楽と楽器の街。楽器職人の工房が並び、上質な音色を求めた音楽家達が集う街なのです。特に有名なのが、鍵盤楽器ピラカと、弦楽器ギォリン。少し音は違いますが、ピアノとバイオリンによく似ています。制作が難しく、都会的な音色を持ったそれらの楽器の工房を見学したり、音楽家達の試し弾きに耳を澄ませたりするのも楽しいですが、今日ご紹介するのはそちらではなく、この土地に古くからある民族楽器です。
楽器をご紹介するなら、まずは音楽から。日が暮れるのを待って、酒場へ行ってみましょう。まずは一杯、木彫りのマグであたたかい赤葡萄酒でもいかがですか。港が近いですからね、食事は新鮮な魚の香草焼きとお芋のポタージュスープ、パンにはクリームチーズとグリーンベリーのジャムを塗って召し上がれ。
体があたたまったところで、音楽に耳を傾けてみましょう。マイ楽器を持ち寄った酔っ払い達が、ご機嫌で合奏しているこの曲。ちょっと変わっているでしょう? どことなく、森の中で奏でているような……。
ハープやギォリン、軽快な太鼓の音に紛れるこの「森の音」こそ、この街の民族楽器の音色です。さらさらと揺れる葉擦れの音のようなもの、小川の流れる音、それから色々な種類の小鳥の歌。
鳥の声に似た音色の笛ならば世界中のあちこちに存在していますが、「ヴァルネの鳥笛」の
面白いところは、その種類がものすごく多いところです。スズメやカナリヤといった鳥の種類ごとに存在するだけでなく、オスとメスもそれぞれ別の笛が用意されていますし、普段の声と繁殖期の求愛の歌、雛の声など、とにかくありとあらゆる鳥の声を笛にしてやろうという、執念めいた何かすら感じます。
一つひとつは手のひらに収まるサイズで、その鳥の羽の色を使った鮮やかな幾何学紋様が美しい、吹けば小鳥の声を完全再現できる、ちょっとマニアックで可愛らしい笛。お土産にぴったりです。
専門店がいくつもありますから、ぜひ立ち寄って色々試し吹きしてみてください。私のイチオシは、そこの一番酔っ払っているおじさんが抱えている、でかい角笛型のやつです。あれはドラゴンの咆哮が出せます。楽器としてはあれですが、一発で害獣を追い払えるので、農家の人には人気みたいですね。
ああ、ほら。彼が吹きますよ! 耳を塞いで!
ね、すごかったでしょう! 欲しくなりますよね。でも、絶対に街なかで吹かないようにしてくださいね。特に彼のように調子に乗って酒場でぶっ放そうもんなら、ああやって間髪入れずに店主にぶん殴られます。
え? あれはいらない? なんでですか?
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