12月1日 書架の国の読書ランタン

 海を越えてスシュネール大陸へ。世界でも有数の港を持つ国リオーテ=ヴァラは、爽やかな海の国……というわけでもありません。いかにも「海の男」といった雰囲気の船乗り達は、みんな別れの挨拶をして外国の船に乗り込んでゆきます。あ、でもあの人……違います、その左。「豪華客船のスタッフかな?」というような丈の短い紺のケープを羽織った彼。あの人はこの国の漁師です。しかも時には海に飛び込んで、銛で獲物を仕留めるタイプの。


 大きな港を生かして世界中から書物を取り寄せ、学者を呼び寄せ、学校と研究所を建てたこの国は世界一の学問の国であり、魔術研究が進んでいる国です。公用語はなんと古代魔術言語エルート語! 大きな図書館が多く、道を歩けば数件おきに書店があるので、「書架の国」とも呼ばれています。道ゆく人もなんだか知的な格好をした人が多いようです。短い灰色のケープを羽織っているのが学生で、有彩色のケープを着ているのが学者、長いローブを着込んでいるのが魔術師。漁師の彼も、何らかの学位を持っているのでしょう。


 そんな書架の国で図書館巡りを楽しんだ後のお土産に最適なのが、読書用魔導ランタンです。大通りを離れたところにとても可愛らしいガラスのランプ屋さんもあるのですが、今日はそちらではなく、デザインよりも性能に的を絞った品をご紹介します。


 端的に言えば、この国の図書館で貸してもらえるランタンと同じものです。図書館に入ると希望者は一人ひとつ閲覧用のランタンを借りられるのですが、これね、普通のランタンではないのです。


 まずは魔力のある方向けの「魔導ランタン(「魔導」は「魔力伝導」の略称です)」からご説明した方がわかりやすいでしょうか。持ち手を握って回路へ魔力を流し、水晶によく似た魔石を光らせるタイプですね。熱を発しないので普通は石が剥き出しになっているものですが、どこの図書館でも、貸出用の閲覧灯はガラスの覆いがかけられています。


 実は、不必要な装飾に見えるこのガラスこそが重要なんです。郊外の工房で作られた特殊遮蔽ガラスで、紫外線と魔力波を遮断します。本を傷めない、読書専用ランタンなのです。


 ほとんどの国立図書館は窓ガラスにもこれを使っていますから、理論上は何年経っても本が日焼けしないそうです。とはいえ人の技術に絶対というのはありませんから、内部をかなり薄暗く設計し、利用者が明かりを持ち歩くシステムになったようですね。


 魔術が使えない方向けには、紫外線と熱を遮断するガラスをかけたオイルランタンがあります。あたたかい色の炎が揺れるさまが美しいと、こちらを好んで使う魔術師もいるようですね。反対に魔導ランタンの青白い光の方が読み書きしやすいという方には、魔力を充填し魔術を発現させてくれる有料サービスのある図書館も少なくありません。お茶一杯分の値段で依頼できますので、魔力のない方もお試しあれ。


 そんなランタン二種、お土産屋さんよりは図書館の売店で入手する方がおすすめです。どこで買ってもおおよそは似たような性能ですが、特に国立中央大図書館はバックヤードに開発部を抱えているので、ガラスが特注なだけでなく、専属の魔導師が緻密なチューニングを施したオリジナル製品を買うことができます。そのぶん高価ではありますが、費用対効果を考えればとても良心的な価格です。


 あなたも自宅の書斎に遮光カーテンをかけて、明かりをこのランタンに変えてみませんか?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る