11月30日 迷宮都市の妖精香水

 真上の国編は今日でおしまいですから、最後にちゃんとお土産らしいものもひとつご紹介しておきましょう。


 「妖精香水フィアラフローモ」の名で知られる、水晶の小瓶に入った香水です。


 これは簡単に言うと、妖精の香りを身に纏える香水です。いいですか、「エルフ族の体臭を再現する」という言い方をしてはいけません。耳の後ろに一滴で、花の妖精の香りになれる香水です。



 ラインナップは4種類。


1)背が高く耳の長い「花の妖精エルフ」の香り:アロマオイルのような甘さの強い香りではなく、花束に顔を突っ込んだ時のような少し青っぽい花の匂いです。


2)小柄で背中に蜂の羽がある「宝石妖精フェアリ」の香り:こちらは青葉の香りです。森の中で木に登った時のような感じ。


3)ずんぐりした髭もじゃ「鍛冶妖精ドワーフ」の香り:燃える炉と火の粉の香りです。熾火になった暖炉の匂いにも少し似ています。


4)とんがり帽子の小人「大地の妖精ノーム」の香り:これは……掘り出したばかりの芋の匂いです。イメージがつかなければ、とりあえず森の土に顔を突っ込んでください。



 試してみたい香りはありましたか?


 この香水は洞窟の国の魔術師の塔「月の塔」が開発に関わっている魔法の香水で、ひとつ他とは違う大きな特徴があります。それは「使用者の体臭を強く隠蔽する」というものです。普通の香水は使う人の体臭と混ざり合って香りが変化する、つまり同じ香水を使っても人によって少しずつ香りが変わってくるものですが、これは違います。人間の匂いを隠し、妖精の匂いに変えるという、ある種の魔法薬的な効果を持っているのです。


 ですからこの香水を一滴落とせば、出会う相手はあなたに妖精のような神秘的な印象を抱くでしょう。夏場なんかの、汗をかいて匂いが気になる時にも便利です。水晶の小瓶は宝石細工師の手で複雑なカットが施されていて、光にかざすと夢のようにキラキラ光ります。


 ね、素敵でしょう? 表通りの雑貨屋で買うのも楽しいですが、路地裏の小さな調香師の工房を訪れてみるのも良いですよ。普通の観光客向けには卸していない無骨な遮蔽ガラスの大瓶を手にした、傷跡がワイルドな魔獣狩りのお兄さんと出くわしたりできます。


 そう。この香水、元々は魔獣避けの薬として作られたものなのです。魔獣が人間しか襲わない生き物なのは周知の事実ですが、街を守る立場の人間はどうしても、かの凶暴で邪悪な獣と相対せざるを得ません。この発明で、騎士団や魔獣狩り達の負傷率は実に五分の一以下になったと言われています。これから森の中を通って港へ向かうという方も、ひと瓶手に入れておくのがおすすめです。


 けれど、これがあるからといって油断は大敵。いつも汗臭い騎士団の男衆だから効果絶大なのであって、身綺麗にしている女狩人の負傷率は三割減程度にとどまるというデータもあります。魔獣とてそこまで愚かではないのです。匂いだけでなく話し声や足音、魔力の気配にも敏感に反応して襲ってきます。森に囲まれた街道を行く時は、いい香りのする魔獣狩りを雇うことを忘れないで。




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