第4話 招かれざる客

 自分たち以外が何者かの魔法によって眠らされてしまった。一度落ち着き、まずはミオがこの状況を整理する。


「恐らく術者の魔法階級は5。それ未満のかたが魔法の影響で眠らされてしまった、と考えるのが妥当ですわね」

「ということはあなたの魔法階級は5なの⁉︎」

「そうですわよ。強いのは自分だけだと思っていられては困りますわ」

「私が強いだなんて…そんなこと思ってないわよ…」

「そうですわね。魔法階級だけでは真の強さは測れませんもの。今までジン様の側に居たあなたが一番よく分かっていることですわね」

「そうよ…」


 二人が言葉を交わしていると、何者かが講義室の扉を開ける音がした。


「ちわーっす。危ないお兄さんがやって来ましたよーっと。そんなこと言っても皆んな寝てんのか……って、おい、そこのお嬢さん二人、お前ら大人しく眠らなかったのか?」


 中に入って来たのは、見知らぬ赤い髪をした細身の男が一人。制服を着ていないということから、アラン学園の生徒でないことは一目瞭然だ。しかし、教師というわけでもなさそうだ。背中には細い棍棒を掛けている。

 男の鋭い瞳は、眠らずにいたクリスとサラを捕えた。

 明らかに自分たちの敵であると判断したクリスは、男に対して質問を返した。


「…っ、あなたは何者なの⁉︎何が目的でこんなことをしたの⁉︎」

「うるせぇ、先に質問してたのは俺だ。お前も大人しく眠っとけ」


 男は瞬く間にクリスの目の前に現れ、棍棒で彼女を薙ぎ払った。

 クリスはそのまま窓に衝突し、高い音を響かせながら割れたガラスの破片が彼女の皮膚に傷を付けた。

 額から流れる血が目に入らぬよう、無意識に左の瞼を閉じる。


「クリスさんっ!大丈夫ですの⁉︎」

「悪いわね…手間かけさせちゃって…」

「こんなことで謝らないでくださいませ!あなたはジン様の大切なご友人なのですから!私が心配するのも当然です!」


 慌てて駆け寄ったミオが彼女の治療を始める。それにより傷口は塞がるが、失った血液や消耗した体力が戻るわけではない。ましてや受けた攻撃の痛みが消えるわけではない為、完全に復活するにはある程度の時間が必要となる。

 梱包による打撃のダメージが身体中に広がる。斬撃とはまた違う痛みだ。疲弊したクリスの霞んだ視界に映り込んだのは、自分を治療するミオの背後に立つ男の影。男は口角を上げ、棍棒を振りかざす。


「——だめ‼︎」


 ミオにとってはそれは一瞬の出来事であった。

 クリスの治療中、彼女が突然自らを覆い隠すかのように飛びついて来たかと思えば、鈍い音が鼓膜に届いた。

 大量の血を吐き出している様子を見ると、クリスは男の攻撃をもろに喰らってしまったようだ。身を挺してまで自らを守った彼女に対し、気が付けばミオは問いかけていた。


「どうして…私を…?」

「忘れられているとは言っても、あなただってジンの古い友人でしょう…?私が守るのも当然よ……。だから、早く逃げなさい…。お願いだから…あなただけでも生きて…」

「おいおい、俺のことは放置かよ?くぅーっ、寂しいねぇ。俺って寂しがりやだからよぉ、相手してくれねぇと怒っちまうぜぇ‼︎」


 気を失っているクリスにとどめを刺そうと、男は全力で振りかぶった。

 しかし、ミオはそれを人差し指の先で受け止めた。クリスをその場で寝かせ、彼女は立ち上がる。


「どういうことなんだよぉ!なんで俺の攻撃が止められるんだよぉ⁉︎」

「魔法障壁を指先に集中させて展開しているだけですわ。命が惜しければ、今すぐ武器を置いてくださいます?」

「あまり良い気になるなよ?客は俺一人だとは限らねぇんだ。俺たち改革派はそんな小さな組織じゃねぇからなぁ。おい、そっちの方は順調か?」


 男は突然他の者に対して話しかけた。しかし、気が狂ったといったような様子ではなさそうだ。その視線はミオではなく他の誰かに向けられている。咄嗟に振り返ってみると、そこには男の仲間であろう女が立っており、気絶したクリスを人質にするかのように持ち上げていた。


「こっちはもう準備できた。生徒や教師たちは拘束済みだ。じきにへ送られるだろう」

「…へへっ、やるじゃねぇか。聞いてたか?これからお前たちは、俺たちの為の駒になるんだ」

「誰があなたたちなんかの‼︎」

「おっと、抵抗するなよ。少しでも変な動きをしたら、お前のお友達は…殺すぞ。まずはそうだな…脱げ」

「…っ、どうしてそんなことを…っ」

「良いから早く脱げ。お前みたいな生意気な女を見てるとよぉ、虐めたくなるんだよ、俺は。それともお友達が死んじゃう姿を大人しく眺めとくかぁ?」

「……分かりましたわ。従います…従いますからどうか…」


 ミオは涙を溢しながら制服のボタンに手をかける。震える手でゆっくりとボタンを外していく度に、彼女は絶望する。スカートが地面に落ち、スラリと伸びた生脚が顔を出す。

(怖い…私はどうなってしまうのでしょうか…。この下衆な男に汚されるだなんて…)


「…相変わらず悪趣味だな、ユーリは」

「へへっ、こーゆーのが一番興奮すんだよ!」

「はぁ…ヤるなら早く済ませろ」


 ユーリと呼ばれる男は、ミオの白い肌に興奮するが、下着姿になり手を止める彼女にもう一度命令する。


「何してんだ、全部脱げ。全裸だ」

「……はい」


 今にも消えそうな声で彼女は返事をする。

 淡いピンクのブラジャーのホックを外し、それを脱ごうとするが、身体が言うことを聞かない。両腕で胸を隠し、ミオは地面に膝をついた。

(嫌だ…こんな男に汚されるなんて嫌だ…っ!)

 そんな姿に苛立ちを覚えたユーリは、怒りのままに彼女を蹴り飛ばした。


「あんまり手間かけさせるんじゃねぇよ‼︎」


 『きゃっ!』という小さな悲鳴とともに彼女の胸が無防備に曝け出された。その輪郭は、綺麗な円を描いており、ユーリは更に興奮する。

 引き締まった腰や太ももを眺め、彼はゴクリと喉を鳴らした。抵抗する気力を失くしたミオは、虚な目で天井を眺めていた。

(あぁ…私、なんて無様なんでしょうか…。こんなことならせめて…ジン様にこの気持ちを伝えたかった…。嫌だ…嫌だ…嫌だ…嫌だ…!)


「…っ!私はジン様のことを愛しています‼︎」


 ミオは自分の出せる声の全てを出し切った。恐怖に打ち勝ち、長年積もらせた想いを吐き出した。最後に後悔が残ってしまわぬように、その力を振り絞ったのだ。

(できることなら…本人に伝えたかった…)

 突然大声を上げたミオに対し、ユーリは吹き出した。


「どうした、恐怖で頭がおかしくなったのか?残念ながら、お前の相手はそのジンって男じゃなくてこの俺だ。すぐに気持ち良くしてやるよ…」

「や…や…やめ…やめて…私は…」


 今すぐにでも逃げ出したいが、震える足では立ち上がることもできず、足首を掴まれた彼女は、自分には逃げ場が無いということを察した。

(ごめんなさい…ジン様…私はこれからこの男に…)

 ネックレスを握りしめ、ミオはこれから行われることを受け入れることにした。


「仕方ねぇ…下はこの俺が直々に脱がせてやるよ…」

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