第36話アリーは受験する1
「魔法学園の特待生試験は、筆記試験、魔法試験、面接。この三つよ。しかし、アリーさんの場合、七賢人の一人、氷の魔術師ウィリアム・アクア様の推薦があるから形だけよ。わかった?」
「ふぁ、ふぁい」
「(どうしよう魔剣さん? 絶対罠だよね?)」
「(へ? 君、何を言ってるの?)」
「(だって、形ばかりの試験で特待生にしてもらえるなんて、変じゃない? それに氷の魔術師さんて誰?)」
「(それは確かに僕もわからないけど、このラナさんって人が悪い人には見えないよ)」
「(うわべだけで判断しちゃだめだよね。だって。でっかい胸の人にいい人はいないって言うでしょ)」
言わないと思う。それにうわべで判断してるのアリーの方だよね?......と聖剣は呆れる一方、なら姉のソフィアについてはどう思ってるんだろう? と思った。ソフィアも騎士ラナ同様立派なお胸をお持ちだ。......アリーと違って。
「(絶対本気でやらないとダメなヤツだよ、うん)」
「(うん、まあ、試験事態は本気でやった方がいいだろうね。真面目にやってる人のことを想うとね)」
「(そうだよね。じゃ、魔剣さん、力を貸してね♡)」
「(......はぁ、まあ、いいけど)」
聖剣は結局インチキする気満々のアリーに更に呆れたが、万が一試験に落ちると厄介なことになるだろうと協力することにした。
「どうしたの? アリーさん? ぼんやり......考え事?」
「あ!? いえ、すいません。つい、ちちの事を。それで最初は何の試験ですか?」
「おちちうえ? ......きっと辛いことを思い出してたのね。でも、それはおいておいて、最初は魔法試験よ。大丈夫よ。魔力とか関係ないから、できるものを見せてくれればいいのよ」
「(大変だよ! 魔剣さん! これ、絶対罠だよ。きっと私の魔力が弱いことを!)」
「(そんなに人を疑ってばかりだと疲れない?)」
「(何を言ってるの? この世の中にはね。二種類の女しかいないの! 性根の腐ったデカい乳の女と控えめな胸の善良な女の子だけなの!)」
『胸への偏見......半端ないな。それにお姉さんの胸はどう考える? ほんとわからん』
「えっと、アリーさん? また考え事?」
「あっ! すいません。魔法試験は付与魔法を使った剣のでもいいですか?」
「魔法試験の場合、魔法なら何でもいいわ。その代わり、私と剣での対戦の相手になるかな」
「(ひぇー。この人、本気で私を潰す気で来てるよ)」
「(なんで? というより、僕に剣での対戦させる気でしょ? 君の方がずるいよ)」
「(そ、それはそうだけど......お願い♡ 聖剣さん♡)」
こういう時だけ聖剣と呼ぶアリーにはぁ~とため息をつきたくなるが、聖剣は快く引き受けることにした。
「(わかったよ。その代わり、聖剣は使わないでね。あれを見られると君と僕の正体がバレる恐れがある)」
「(よっぽど、酷い悪事を働いて来たんだね。わかるよ、聖剣さん)」
聖剣は何がわかるの? と抗議したかったが......。
『いや。この子の言う通りだ。僕は君が君を愛する人と殺しあう運命に導いてしまうのだから......そして、殺しあう相手は......』
殺しあう相手はアリーのお姉さん、ソフィアだろうと思うところで思考は中断した。
「あら? でもアリーさんは剣を持っていないわね、自前の剣じゃないと不利ね? 実家にあるなら、私が取りに行ってあげましょうか?」
「えっ……と、自前の剣は持っていなくて……その......借りることはできませんか?」
「冒険者ギルドの予備の剣を貸りることはできるから大丈夫よ。だけど……慣れた剣が一番よ」
「(えーん。しまったよう~。これ、きっと自前の剣さえ持って来ないと評価が落ちるヤツだよ)」
「(気にしすぎだよ)」
「さっきも言ったけど、魔法の威力だけが試験じゃないからね。安心してちょうだい」
「(やばいよ、多分、試験は勝てなくても、爪痕を残すか、気構えがしっかりしていればパスできるヤツだったんだよ。はめられたよー)」
勝手にはまったんじゃないか? と、突っ込みたい聖剣だった。
「では、すみませんが、剣を貸して下さい」
「ええ、わかったわ。ギルドの倉庫から好きな剣を借りてらっしゃい。あ! でも、少しでも自分の力や体格にあわせたモノを選ぶといいわよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「(ひぃー!?)」
「(どうしたの? アリー?)」
「(多分、剣も自前で持ってこないとか、ありえないんだよ。 確かにちょっと考えたら、当たり前だよ。はっ!! きっと、試験のハードルが上がっちゃったんだ! 今、ラナさんは少しでも自分の力や体格に合わせたモノを選べって……きっと、これも試験なんだ! 不相応な剣を選ぶと、きっと減点なんだ!)」
アリーはラナに連れられて倉庫に向かい、剣を選ぶことになった。
「(だめだ……困った。なんかどれも魔法が上手く付与できそうな剣がないよ)」
「(そんなことわかるの?)」
「(わかるよ。魔力を吸ってくれるのはいい剣だよ。でも、ここのは全然)」
『そんなことまでわかるのか? まあ、予備の剣なんてなまくらに決まってるけど』
「(これはかなりピンチだよ! 自前の剣を持ってこないと、こんなハンデになるんだよ)」
アリーは一人で勝手に妄想の中で絶対絶命になっているが、いい考えが閃いた。
「あ、あのラナさん? この剣を少し、強化してもいいですか?」
「……え?」
アリーの質問に何故か、ラナはポカンと口を開けて固まってしまった。
「悪いけど......何を言っているのか意味分かんない……でも、試験規則にそんな決まりはないから大丈夫……多分」
「ありがとうございます」
良かった、許可がもらえたと、アリーは絶対空間に収納していたユグドラシルの杖を召喚した。
ユグドラシルの杖は製薬の他、錬金のスキルも持っている。
「(剣を強化しよ♡。ついでに組成も変えよ♡)」
アリーは剣を量子段階から錬金術の魔法で無銘の剣の組成をなまくらな鉄から鍛えられた玉鋼へと変えた。中央を柔らかい鋼に、外周を硬い鋼に鍛錬と焼き入れの処理を魔法で行った。
「(よし、できた。これなら強度も切れ味もちょうどいい筈♡)」
「(ちょっと、アリー? ユグドラシルの杖に錬金のスキルがあるにしても、どうして君はこんな知識があるの? こんなの聞いたことがないよ!)」
聖剣は驚き、アリーに聞いた。
「(え? これ、古文書で読んだ太古の刀鍛冶の技法を取り入れただけだよ)」
「(あ......そう)」
また古文書かと、あまりのご都合主義に呆れる聖剣。
「この子……大丈夫かしら? 何を言っているのかさっぱりわからない。でもいいわ、試合を始めましょう」
「はい! よろしくお願いします!」
試合開始となった。騎士ラナは女性ながら、立派なロングソードを使用していた。
これは、かなりの剣戟がくるかな?
アリーは身構えて、ラナの剣が振り下ろされるのを待った。
ラナはしばらく躊躇するものの、意外とあっさりその剣を振り下ろして来た。
聖剣がアリーの体を操り、即席の剣で受けた。
聖剣に操られたアリーの動きは極限まで無駄なく、極限まで自身の剣に負担なく、極限まで相手の剣の一点に力が集中するように剣を受け身の型で受けた。
アリーよりずっと身長が高いラナの剣の斬撃を細身のアリーが受ける。
さぞかしとんでもない衝撃がやって来るのだろう。
来る筈だよね?
「あれ?」
何故かラナの剣を受けた時、何の衝撃もなかったような気がする。ラナの剣、どうした?
良く見ると……ラナの剣が……あっさり折れていた。
……いや、斬れちゃった。
「はっ?」
「えっ?」
「へぇ?」
ラナもソフィアも、とうの本人のアリーも間の抜けた声をあげる。
さっきまで心配そうに見守っていたソフィアも、すっかりびっくりしてしまったようだ。
ぽかんと口を開けて、アリーと斬れてしまったラナの剣を交互に見る。
「(私……なんかやらかしたような気がする)」
アリーが一人......焦っていた。
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