第37話アリーは受験する2
「(私なんかやらかしたような気がする)」
「(そうだね。盛大にやらかしたね)」
「(魔剣さん、酷い! 魔剣さんのせいなのに!)」
「(僕のせい?)」
そんなことを脳内で聖剣とやりとりしていると。
「ま、参りました。私の負けです」
「......え?」
アリーは驚いた。これで終わってしまうのか? アリーには非常にまずい事態と思えた。
「(魔剣さんのせいだけど、多分これ、ラナさんの剣の整備不良か何かだよね?)」
「(まあ、そうだね)」
なんか、どうでも良くなってきた聖剣。剣を簡単に切り裂く剣を作るとか意味がわからない。
しかし、アリーはこう思った。
「(私、何も爪痕を残せていないよ! 多分、この試験は負けても、ラナさんを納得させることができれば良いモノだよ。なのに、ラナさんは勝負を終わらせてしまった)」
アリーは現在起きてることを分析する。そして、一つの結論に達する。
「( は!?)」
「(どうしたの? アリー?)」
「(そうだよ、私が自前の剣さえ持参しない上、不運にも剣が折れるというアクシデントが起きて、機嫌を損ねてしまったんだよ)」
そう来るか......聖剣はなんか色々めんどくさくなってきた。
「(ここは何とか、試合をもう一度やらせて欲しいよ。ううん、そうしないと、剣技の点数がかなり悪いものになってしまうよ。この試合にはきっと勝敗は関係ないよ)」
「(ふうん)」
「(魔剣さん! 酷いよ! 他人事みたいだよ)」
完全に他人事である。そもそも、何も困ったことは起きていないことを聖剣は知っている。
「(もう一度試合をしてもらうように頭を下げてみたら?)」
「(そっか、ありがとう魔剣さん! 私、自分が悪くても頭を下げるのは嫌いだけど、今回仕方なく下げるね)」
聖剣はアリーの根性の曲がり具合にやや疲れて来た。
「すいません。お願いです。もう一度勝負を! 私に機会を下さい!」
アリーは泣きそうな顔で、頭をこれでもかと低く下げた。
しかし。
「いえ、そうは言っても、剣が折れてしまったから」
そうか、そういう問題もあったのか!! と、今更思い至るアリー。だが、それなら話が早いのである。
「剣は私が責任を持って修復させてもらいます!」
「え? そんなこと、鍛冶屋さんじゃないとできないわよ?」
「いえ、私の杖には錬金術のスキルがありますから、剣の修復はできます」
「錬金のスキル? ごめん。意味わかんない……わかったわ。直してくれたら、もう一戦ね」
「わかりました」
アリーは試験官の剣を受け取ると、剣に氷の魔素を送りチェックした。
「(ミスリルの剣だ)」
市場に出回る剣では最上級の剣だ。
「(危ない、危ない。こんな貴重な剣、私のせいで折っただなんて。絶対、試験、落とされるよ)」
しかし、アリーは思い至る。
「(あ! これはチャンスだよ!)」
アリーは思う。このまま、ただ修復するだけでは、自前の剣を持って来なかったという失点は消せない、ここは。
アリーは錬金の技術でミスリルの剣の中心をこの世界でもっとも頑丈で、少し柔らかいオリハルコンに変え、外周をより硬いアダマンタイトに変えた。もちろん、鍛造と焼き入れの措置も忘れない。
いや、これだけでは心許ない。ラナに好印象を受けてもらうためには、もっと工夫を。
そうだ。剣に魔法を付与しよう。
アリーは剣を修復というか、全く別物に変えて、魔法を付与した。
付与魔法は氷の魔法を強くかけておいた。
「出来ました。確認ください」
「ええええええ!? 本当に修復できたの? 助かる。ん? でも、ものすごく軽いし、魔力を強く感じるわよ?」
流石王国騎士、鋭い。ラナは直ぐに見破った。
「はい、ついでなので、材質をアダマンタイトとオリハルコンに変えておきました。氷の付与魔法も施しましたから、安心して下さい。もう、不幸な事故で折れたりしません!」
「え?」
「いや、アリー? 何言ってるの?」
「えっと、アリーさん? 剣が修復できるだけでも凄いのに、アダマンタイトとか、オリハルコンとか、何?」
なんか、ソフィアがポカンとしてるし、ラナが変なことを言い出した。
いや、全うな意見なのだが。
「まあ、アリーさんのことだから、意味わかんないのは当然だから、再戦しましょう」
「はい! お願いします!」
アリーとラナは剣の切先を合わせると、試合を再開した。
しかし、ラナはさっき違い、打ち込んで来ない。
アリーはこう思った。
「(そっか、さっきと逆で、今度は私に打ち込んで来いってことだ)」
聖剣は絶対違うと思ったが。
「(お願い。魔剣さん♡)」
「(わかったよ。アリー)」
聖剣はそう言うと、アリーの体を操って、剣を振るった。
単純な上段からの逆胴への一撃だ。
ラナは素早く、アリーの剣を受けた。
しかし、不幸は起きた。
パキン。
ラナの剣が……また折れてしまった。
「……ま、参りました。もう許して下さい」
「え?」
「やっぱり」
「(あれ? なんかまたやってしまった?)」
多分、慌てたから剣の修復の時、不運にも弱いところが出来てしまったんだとアリーは考えた。
「(失敗しちゃった。今度こそ終わっちゃった?)」
「ご、ご......ごめんなさい」
アリーは泣きながら、ラナの剣を再度修復した。
しかし、ここで試験は中止になってしまった。
「(私......ハワード男爵の13番目の奥さんになっちゃう )」
「(もう、君は13番目でも100番目でも、もらってくれる人がいればいいんじゃないか?)」
「(しどい! 魔剣さん!)」
こうして、アリーは落胆して、筆記試験と面接を受けることになった。
聖剣は......こんな化け物、もう嫁のもらい手ないな......と、失礼なことを考えていた。
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