第64話 穴は穴でも……
穴の中は暗闇だった。一直線で繋がっていると思ったが、全然目的地である人形が集まった場所に着かない。
『あーん! もっとよ♡』
そして、聞こえてくるのは気持ち悪い魔物キャッチャーの声だ。
前までは脳内に直接語りかけるような声だったのが、今はこの空洞の中で響いている。
トラップ箱と同様にどこか気持ち悪い声をまずどうにかして欲しい。
「うるせーよ!」
咄嗟に空洞の壁を叩くとピクリと動いているような気がする。
「そこはダメなの!」
「だから、何がダメなんだよ!」
自分から穴の中に入ったものの、俺はイライラしながらも進み続けた。
その後もしばらく進むと、やっとお目当ての人形部屋に到着した。
思ったよりも大きい人形に少し驚いた。大きさ的には今の俺と同じぐらいなのだ。
「おーい、ボス!」
「ん?」
俺は呼ばれた方に目を向けると、コボルト達が手を振っていた。
なぜか呑気に手を振っているその姿にさらに苛立ちを感じる。
あいつが欲しいと言ったから、気持ち悪い声を聞きながら中まで入ってきたのに……。
「ボス、コボルトはそこにいますよ!」
俺が人形を探せないことを心配に思ったのか、必死にコボルトはさっき取ろうとしていた人形を指差していた。
そんなにコボルトを召喚したかったのだろう。ここは俺が出番だな。
俺は近くにある人形を手に取ると鞄に詰め込む。
『えっ?』
さっきよりも響くことはないが、驚いた声が聞こえてきた。
それでも俺は無視して人形を鞄に詰める。
エンチャント"性質変化"で無限に入る鞄だと、簡単に人形を持って移動できるのだ。
『ちょ……流石にそれぐらいにしてくださいよ! 気持ち良くしてくれたお礼はそれだけで十分ですよね?』
こいつは何を言っているのだろうか。あれだけずっと気持ち悪い声を聞いていた俺の頭の中は、常に同じ言葉が流れている。
「もちろん全部持っていくに決まっているだろ?」
『ふぇ?』
人形が魔物になるということは魔物キャッチャーから説明を聞いている。尚更、人形を残して置いておく理由がないのだ。
――ドンドン!
俺はどんどんと人形を詰めていく。
――ドンドン!
「うるせーな……」
視線を前に向けると、コボルト達が必死に魔物キャッチャーを叩いていた。
俺と目があったことに気づいたゴブリンが必死に指を上に向けている。
「兄貴! 上です!」
「上がどうし――」
咄嗟に"速度強化"の付与術をかけると、すぐにその場を離れた。
『チッ! 逃げられたか!』
俺の頭上にはアームが近づいて来ていたのだ。
「ご主人様、早く回収しないと捕まってしまいますよ」
魔物キャッチャーは俺を捕まえて、外に出そうとしていたのだ。だが、俺を捕まえるにはアームの降りてくる速度が遅い。
「エンチャント"速度強化"」
「エンチャント"速度強化"」
「エンチャント"速度強化"」
再び付与術を重ねがけすると、そのままの勢いで人形を鞄に詰め込む。
「おー、兄貴の動きが見えないですね」
「拙者達ではまだまだ力不足ってことか」
『いやぁー、それ以上はダメー!!』
反応は様々だが、魔物キャッチャーが必死に俺を捕まえようとアームを動かしている。
「残念だが全部持っていくぞ!」
トラップ箱の時も全て吐き出したが、魔物キャッチャーも何も残さず持っていくつもりだ。
鞄に人形を詰め終えた俺は再び穴に向かった。
「エンチャント"性質変化"滑走化」
穴に向かって付与術をかけると、俺は勢いよく穴に飛び込む。
「うひょー!」
一度やってみたかった遊びだったが、ちょうど良い場所がなかった。
壁にお尻が触れた瞬間に滑って、俺はそのまま穴を下っていく。
『うっ、腸に違和感が……』
「腸?」
どこかで聞いたことある言葉に俺は首を傾げる。確か何かの本で見たことある気がする。
そんなことを考えていると、徐々に明かりが見えて来た。そろそろ出口なんだろう。
『急に出てくるとお尻が広がって――あっ……』
「えっ? 尻!?」
出口は出口でも俺はお尻から出てきたらしい。
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