第63話 穴に侵入


 あまりにも魔物キャッチャーが可哀想に感じた俺は三人を止めた。その時には魔物キャッチャーの体はそこらじゅうが凹んでいる。


『うっ…….ひどいです……』


「おいお前らやりすぎだぞ」


「だってボスがさっき――」


「俺は傷つけることはしてないぞ。ただお前達がやっていることはなんだ?」


「兄貴理不尽です!」


「理不尽も何もあるか! 体を傷つけてはいけないと学ばなかったのか!」


「体を傷つけては……どこが体ですか?」


 たしかに言われてみればどこが体かまではわからない。むしろ顔も存在するのだろうか。


 それでも俺は魔物キャッチャーを助けることにした。


「ほら、お前達去った去った!」


「ふぇーい」


 あいつらは気が抜けた返事をして、魔物キャッチャーから離れた。


『ぐすん……助かりました』


「ああ、それでこれはどうしたら魔物が召喚されるんだ?」


『それでは一回無料プレイしてみてください』


 またトラップ箱と似た仕組みなんだろうか。


『取っ手に触れて上のアームを動かして獲得した人形が魔物として召喚されます』


 魔物キャッチャーの説明では獲得した人形が魔物の姿になって現れるらしい。


 たしかに中を覗くとコボルトやゴブリン、いろんな各色のトカゲ、ハーピーやオーク、オーガなどが中に入っていた。


 俺は取っ手を掴んで動かした。


『やぁん♡』


 あれ……どこかで似たような言葉を聞いた気がする。


 俺がそのまま取っ手を動かすと、たしかに箱の中のアームが動いていた。


『ああん、もっと……もっと……もっとよ♡』


 箱から流れて来る声がとにかくうるさい。集中して操作もできない。


「お前いい加減静かにしろ!」


 俺が魔物キャッチャーを強く叩くと、コボルト達は俺を見ていた。


「あれ、兄貴今叩きましたよね?」


「やっぱりボスは理不尽なのねん」


「ああ、そういうご主人様が好きです」


「はにゃん?」


 あいつらはあいつらで楽しんでいるようだ。


 俺は再び取っ手を動かした。


『んっ……あっ……ああん…….』


 静かにしろと言ったからなのか聞こえて、来るのは吐息のような声だった。


 わずかに耳元へ風が吹いている気もする。


「あああ、うざい!」


 俺は再び強く叩くと、隣にあったボタンを押してしまった。するとアームはゆっくりと下がり人形に近づいた。


「ボス何が取れますかね?」


「オラはゴブリンがいいです」


「私は強い魔物がいいのでオーガがいいですね」


 アームは人形を掴み、ゆっくりと持ち上げる。


 たくさんある人形の中から出てきたのは、コボルトの人形だった。


「うぉー! コボルトちゃんですよ!」


「コボルトでよかったな!」


「まぁ、一回目ですしそこはコボルトさんに譲りますよ」


 俺達は初めて召喚される魔物にワクワクしていた。ただ、そのワクワクは一瞬にして崩れ落ちた。


――ポロン!


「へっ?」


「はにゃん?」


 コボルトの人形はアームから落ちて、転がっている。


『残念でしたね。またのご利用をお待ちしております』 


 どうやら魔物召喚は失敗に終わったようだ。


 穴が開いているところに人形が落ちると魔物が召喚される仕組みだったらしい。


「ちっくしょおおおおお! お前ぶっ殺してやるー!」


「コボルトさんこのままじゃあいつが壊れてしまいます」


「そんなの拙者には関係ない!」


 コボルトの手は大きく開き、鋭い爪が飛び出ている。


 目は血走り、今すぐにでも飛びつきそうなぐらい怒りは頂点に達していた。


 流石にコボルトがこの部屋の中で暴れると、部屋は一瞬にして破壊されるだろう。


 それに気づいたゴブリンが必死に止めている。


「俺が取ってきてやるよ!」


 俺は最近完璧に使いこなせるようになった付与術を使うことにした。


 あのギルドマスターに付与した時より、一段とコントロールができるようになったのだ。


「エンチャント"性質変化"狭小化」


 段々と視界に映るコボルト達の姿が大きくなる。


「えっ? 兄貴大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ!」


 耳から聞こえる声も幼く、甲高い声になっている。


 前は大きさだけ小さくしていたが、見た目に合わせて年齢も若くなるように進化したのだ。 


「じゃあ、取ってくるよ!」


 俺は四つ這いでハイハイしながら魔物キャッチャーに近づく。


『いやあ……いやあああああ!』


 下にある穴から俺は魔物キャッチャーの中に入ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る