第38話 死神リーパー ※一部コボルト視点
ダンジョンの探索は明日からにすることにした。今日はせっかくだから王都にある宿屋に泊まることにしたのだ。
ただ問題が一つだけあった。
それは犬を同伴している客の受け入れられる宿屋があまりないのだ。
使役している魔物や動物なら小屋に入れることができるが、コボルトを小屋に入れようとした時に泣きついて俺を離さなかった。
その結果、見つけたのはボロボロの宿屋だった。
それでも見た目がボロボロなだけで部屋や食事の内容は特に問題はなかった。
コボルトやゴブリンも美味しそうにご飯を食べていた。
「ご飯とても美味しかったです」
「ほほほ、それはよかったです」
ただ、少し店主が不気味なのは、お店のコンセプトに合わせているのだろうか。
見た目が不気味なだけで話してみると、至って普通の人のようだ。
「寝る時はちゃんと鍵をかけて寝るんですよ」
「わかりました」
やはり王都は街が大きいだけあって物騒なんだろう。
前から少しずつ下着や服が少なくなっていた気もするが、イヤーダ街ではそこまで鍵を閉めなくてもよかった。
俺達は食堂を後にして部屋に戻ることにした。
「ひひひ、ちゃんと水を飲まないとダメだよ」
♢
俺はどこか寝苦しくて目を覚ました。額と背中には汗がたくさん出ている。
「お前らのせいか」
俺の顔の近くにはゴブリンとコボルトの足が置いてあった。きっと寝ている時に蹴られていたのだろう。
ただ、気持ち悪い寝顔を見ていると、どこか街に連れてきてよかったと思えた。
「ちょっとトイレに行ってくるな」
俺は二人に声をかけてトイレに向かった。
♢
拙者は初めて来た王都で体が疲れていたのだろう。目を覚ましたらうまく体が動かないのだ。
「おい、ゴブリン起きろ」
「コボルトさんこんな時間になんですか……」
「ボスがいなくなったぞ」
拙者は周囲の気を探るがボスはいつのまにか居なくなっていたのだ。
「えっ!? オラ達を置いて……なんで体が動かないんだ」
やはりゴブリンも同じ状況だった。ここから考えられることは拙者達が寝ている間に麻痺の状態異常をかけられてボスが連れ去られたということだ。
「ゴブリン、ボスが危ないぞ」
「兄貴に何があったんですか!?」
拙者達が戸惑っていると静かに部屋の扉が開いた。
「ボスですか?」
拙者は声をかけるが反応はなかった。ただ言えるのは鍵をかけていた部屋に誰かが入って来たのだ。
「ひひひ」
「兄貴何かおかしなやつがいます」
声からしてボスではないのは確かだ。ただ動きたくても動けない。
今すぐにでもボスを助けに行きたいのに……。
「ひひひ」
布を擦ったような音が聞こえてくる。
耳をすませば、何かわからないものが少しずつ拙者達に近づいて来る。
「おい、来るな……うわああああ!」
ゴブリンの叫び声がしたと思ったらいつの間にか反応がなくなっていた。きっと気絶しているのだろう。
一体やつはなんなんだ。拙者は咄嗟に目を閉じる。
早くここから立ち去れと念じた。
だが拙者の気持ちは無念にも朽ちた。
「ひひひ、水分を……」
どこからか落ちてきたヒヤリと感じる何かに目を開けてしまった。
「うわあぁぁぁ!?」
目の前にはこの世のものとも思えないアンデット界の最強種。死神リーパーが拙者の顔を覗き込んでいる。
拙者はその場で命を狩られた。
♢
「何かあったんですか!?」
声が聞こえて急いで戻ると部屋にはお水を持った店主がいた。
「まだまだ残暑だからお水をしっかり飲んでもらおうと思ってね。飲まないと夜に麻痺みたいになって体が動かなくなるからねぇ」
店主は夜間に起こる麻痺もどきのことを言っているのだろう。
医学書には"こむら返り"と言われており、原因は不明だが体の中の水分が足りないと起こると書いてあった。
俺も効率的な付与術師がかけられるように医学書を見て勉強している時に見たことがあったが、この店主はすごく博識が高い人なんだろう。
「ありがとうございます。お水を飲ませておきますね」
「ならここに置いておきますね。そういえばなぜか犬から声が――」
「ああ、それは俺が驚いた声ですね」
店主にもコボルトの声が聞こえていたのだろう。
こいつが話す犬だと思われたら、王都にはいられないからな。
「そうですか。では王都は危ないのでちゃんと鍵をして寝てくださいね」
そう言って店主は部屋から出て行った。
「お前ら迷惑かけやがって……ん?」
何か様子がおかしいと感じた俺は鑑定の魔道具を使うと、案の定二人は全身がこむら返りになっていた。
魔物でも起きる症状なんだと、俺は初めて知ることになった。
二人に水を飲ませると眠気に負けたのかそのまま俺は眠りについた。
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