第33話 これでも話せます
俺はダンジョンの奥に入っていくと突然どこからか声が聞こえてきた。
『ダンジョンにようこそ!』
どこかその声は明るく元気だった。そもそもダンジョンに話す機能ってあったのだろうか。
初めてのダンジョン攻略に戸惑いが隠せない。
「兄貴! ダンジョンって話すのか?」
「それは拙者も思ったぞ!」
「ムッ、オラが先に言ったんですよ」
「いや、拙者は前から――」
ただ俺からしたらコボルトとゴブリンが話すのならダンジョンが話してもおかしくないと思う。
現に言い合いをしている目の前の二人の方が魔物の存在を超えた不思議な存在だ。
「あー、はいはい。同時だったな。うん、同じだ!」
『ダンジョンも話しますよ!』
「ほら、ダンジョンだって言っていることだし……って会話できるのかよ!」
話せることは別におかしいとは思ってなかったが、まさか会話機能までついていたとは……。
壁に立てかけてある松明に火がつく。
ダンジョンの中への道標なのか、ダンジョンは俺達を中に引き込もうとしている。
『ひひひ! それではダンジョン攻略頑張ってください!』
初めての光景に驚いている俺達とは異なり、ダンジョンはどこか嬉しそうだった。
ダンジョンって思ったよりも感情豊からしい。
「じゃあコボルトが先頭で後ろはゴブリンに任せるぞ!」
「えっ? なぜ拙者が先頭なんですか?」
「いや……単純に危な――」
「コボルトさんが頼りになるからですよ! この中で一番強いのは見てわかるじゃないですか!」
おお、さすがゴブリンくん。俺の気持ちを察するのは早い。
だが、すぐにフォローを入れたはずがコボルトはなぜか俺を見ていた。
「この中で強いのはボスじゃ――」
「いや、強いのはお前だ! 俺なんてこんなヒョロヒョロだしな」
俺は服の袖を捲り腕を見せた。
付与術でいつもカバーしているが、力がないのは事実だ。
「ヒョロヒョロなのは関係――」
「あるぞ! なぁ?」
「そうですよ! 兄貴なんて細すぎてすぐにポキッと折れそうですよ? どうせ心もポキッと折れて……」
どうやらゴブリンを甘やかしすぎたようだ。
俺は振り返ってゴブリンの顔を見てニコリと笑う。
「躾が必要なようだな? 後で覚えておけよ?」
「ひぃ!?」
ゴブリンは俺にビクビクしながらも、そのまま俺達はダンジョンの奥へ進んでいく。
その間もダンジョンは相変わらず笑っていた。
♢
「ダンジョンって普通トラップとか魔物が出てくるはずだよな?」
「コボルトちゃんが出てきませんね?」
「ゴブリンも出てこないです」
俺達は奥に進んでもトラップや魔物一体すら出てこなかった。
思っていたダンジョンと全く違うのだ。
予想していたダンジョンといえば魔物が突然現れて襲ってきたり、床が急に無くなったりすることを期待していた。
それが全くなくただの一本道なのだ。
気づけば俺達は大きな扉の前に立っている。
「これが例のボス部屋ってやつか?」
「ボスのご実家ってここなんですか?」
『ははは、やっぱり君達は面白いのね』
いや、ボスはボスでも俺じゃなくてダンジョンのボスだ。流石に俺の実家がここにあったら俺でも流石に遠慮したい。
コボルトがこんなことを言っているからか、ダンジョンはずっと笑っている。
むしろ途中から自然と会話に入ってくるぐらいだ。
「開けるけど準備はいいか?」
俺の問いかけにコボルトとゴブリンは頷いていた。
大きな扉に手をかけた。ここがいよいよボス部屋だ。
「さぁ、出てこい!」
俺はおもいっきり扉を強く押した。
『パンパカパーン! 無名ダンジョンをクリアしました!』
「えっ?」
意気込んで開けた扉から聞こえたのはダンジョン攻略の合図だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます