第32話 ボス! 前が見えません!
「ボス、手を離さないでくださいよ!」
「兄貴、オラの手も離さないでくださいよ!」
俺はコボルトとゴブリンの手を握って歩いている。周りから見たら俺が確実に魔物に捕まった人間に見えるだろう。
だが今になってわかったことはコボルトとゴブリンは昼行性で夜になると全く目が見えないということだ。
魔物が夜間に移動しないのは単に寝ていて活動的じゃないだけかと思っていたが、こんな理由があったとは知らなかった。
だから俺が手を繋いでダンジョンがあった穴まで歩いている。
「ボスいつ着きますか?」
「あー、この辺だったかな?」
「ひょっとして兄貴……どこにダンジョンがあったから忘れてないですか?」
ゴブリンの言葉に一瞬ビクッとしてしまった。
流石に広大な大地にできた、大きな穴があったところなんて、覚えることはできない。
「そういえば付与術でどうにかならないですか?」
「ああ、忘れていたよ」
俺はコボルトとゴブリンに付与術を発動させた。
これがあればひょっとしたら暗闇でも見えるようになるかもしれない。
使うことが無さすぎて存在を忘れていた。
「エンチャント"性質変化"暗視」
「なんだこれは……」
「うぉー! 目が見えるぞー!」
コボルトはよほど夜に見やすくなったのが嬉しいのだろう。二足歩行で駆け回っている。
昔か使ったことはあるが、単に少し見やすくなるぐらいだ。
過去に勇者パーティーを組んでいた時に勇者からかけてくれと頼まれた時は、隣の部屋がうるさくて寝れなかったことを思い出した。
「これでダンジョンを探せないか……?」
「やっぱり兄貴忘れていたんですね」
ゴブリンにはダンジョンの場所を忘れたことがバレていたようだ。
ただ、ここで認めてしまえば俺の面目が立たない。
「兄貴……?」
「拙者に任せてもらえれば夕飯前だ!」
それをいうなら朝飯前だろう。
だが、ここで名を挙げるとはさすがコボルトだ。
「じゃあコボルトに任せるぞ」
今日からコボルトは[職業]
俺はコボルトにダンジョン探しを任せることにして、その間に俺とゴブリンは寝ることにした。
♢
「ボスウゥー!」
しばらくするとコボルトが泣きついてきた。やっとダンジョンが見つかったから声をかけてきたのだと思ったが辺りにはたくさんの穴が空いていた。
「ひょっとしてダンジョンが見つからないのか?」
「申し訳ありませんー!」
コボルトは二つ折りになった状態で謝っていた。この様子だと本当に反省しているのだろう。
「ゴブリンはどこに穴があるかわかるか?」
隣で寝ていたゴブリンに確認するとなぜか真下の地面を指差している。
「ん? どこだ?」
「ここですよ?」
「ん? ここか?」
「はい、ここです。むしろ気づいてて休んでたんじゃないんですか?」
どうやら俺とゴブリンが休んでいた真下にダンジョンがあったらしい。
「なんでそれを先に言わなかったんだ?」
ゴブリンは俺の耳元で小さく呟いた。
「すぐに見つけるとコボルトさんが拗ねちゃうじゃないですか」
ゴブリンはずっと前に気づいていていたが、あえて言わなかったらしい。
ただ事前に相談してくれればよかったが、結局コボルトは自分で見つけられなくて落ち込んでいる。
「おい、コボルトここを掘ってくれ!」
「拙者ではダンジョンは見つけられないです!」
「いいからここを掘るんだ!」
俺はコボルトの手を引き、ダンジョンの上まで連れてきた。
本当に手がかかるやつだ。
「拙者じゃ――」
「つべこべ言わずにここを掘れ!」
俺はコボルトに圧をかけると頭と腰に手を置いて敬礼ポーズをした。
「ハイ! イエッサアアァァァ!」
コボルトは勢いよく地面を掘っていくと、すぐにコボルトの顔は明るくなった。
きっとダンジョンを見つけたのだろう。
「ボス! ありましたよ!」
「よし、中に入るぞ」
「はーい」
俺とゴブリンがダンジョンの中に入ると後ろではコボルトが何かを叫んでいた。
「ボスゥー! 褒めてくださいよー!」
相変わらずあいつは一人でうるさいやつだ。
コボルトの声はダンジョン内で大きく響いていた。
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