第23話 レベルアップ

 俺は今さっき目の前で起きたことに戸惑っている。さっきまで俺が戦っていたゴブリンジェネラルがいなくなったのだ。


「おい……俺の――」


「やったあー! 私達の手だけ・・でゴブリンジェネラルを倒したわ!」


「ああ、これで少しは成長したところをどこかにいるクロウに見せつけることができたな」


 なぜか彼女達は俺の獲物を横取りして喜んでいる。


 確かに俺は目立たないように身を隠しながら戦っていたが、流石にあれだけ傷ついたゴブリンジェネラルと小屋を見たら気づくだろう。


「ふふふ、そうね。私も何か新しい扉を開けた気がしたわ」


「きっとレベルアップしたのよ」


 魔物を倒すとまれに力がみなぎる時がある。


 その時にステータスを確認すると新しいスキルが出現したり、スキルポイントが自動で振り分けられていたりする。


 これを冒険者達の中では"レベルアップ"と言われている。


 そしてモナは色んな意味で新しい扉を開いていた。


 今もメイスを肩に担いでニヤニヤと笑っている。


「それにしてもなんで小屋があんなに壊されてたんだ?」


「きっとゴブリンジェネラルの体が大きくて破壊しちゃったのよ」


「ああ、確かに体のサイズが小屋と合ってなかったからな」


 ひょっとしてゴブリンジェネラルの体が大き過ぎて、自ら小屋を破壊したと思っているのだろうか。


 あいつは俺の獲物だったのに、まさかの嫌がらせ対象の獲物に取られるとは……。


 冒険者には魔物を横取りしてはいけないという暗黙のルールがある。


 基本的に冒険者が助けを求めてない限りは、横取りしてはいけないのだ。


 だが、あいつらは俺のゴブリンジェネラルを横取りしたのだ。


「それよりもゴブリンジェネラルの魔石を取りに行かないと!」


「そうね!」


 唖然としていると気づいた時には意識はどこかへ飛んでいた。


「おーい、ボス大丈夫でしたか? こんなところで固まってどうしたんですか?」


 後から駆けつけたコボルトに体を揺さぶられていると俺はだんだんと意識が戻ってきた。


 人って受け入れられないことが起こると、意識を強制的に停止させることがあるのか。


「はぁ!?」


「ボス大丈夫でしたか?」


「あいつらは?」


「彼女達ならみんなで街に戻ったよ?」


 どうやら彼女達はゴブリンジェネラルの魔石を回収して、連れ去られていた女性達を連れて街に戻って行ったらしい。


 俺はどれだけ記憶を失っていたのだろうか。


「あいつらめ……」


 さらに彼女達が憎くなった。


「ボス、あそこにいるゴブリンが何かに怯えていますよ?」


 コボルトは何かあるのか俺を突いて指を差してくる。


「ん?」


 視線の先にいたのはさっきまで伸びていたゴブリンだった。


 俺はゴブリンに近づくとその姿にどこか既視感を感じる。


「オンナハオソロシイ……バケモノダ……」


 ただ何を言っているのかは聞こえづらかった。


「こいつ何を言ってるんだ?」


「拙者にも聞こえづらいです」


「そうか……」


 俺はゴブリンが何を言いたいのか、わかりやすくするために付与魔法をかけた。


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「女は……」


 女に何かあっただろうか?


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「恐ろしい……」


 恐ろしいって何を言っているんだ?


「ボスそろそろやめた方が――」


 でもまだ何を言っているのか聞き取りにくいのだ。


 コボルトの時にも思ったが、ちゃんと話を聞くならレベル調整をするしかない。


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「エンチャント"レベル調整"アップ」


「ぐわあぁぁぁ!」


「目がぁー!」


 一瞬にして視界が真っ白になるぐらい光ると同時に何が言いたいのかわかった。


「女はこえーよ!!」


 ゴブリンは女性に怯えていた。


「いやいや、俺はお前の方が怖いよ!」


「ん? オラが怖いって……さっきの男じゃねーか! ん? あれ? オラいつのまにこんなに話せるようになったんだ」


「ああ、それは――」


「ボスがやらかしたからですね」


 俺の目の前にいたゴブリンはいつのまにか筋肉隆々の逞しい男になっていた。

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