第21話 孕み袋
とりあえず彼女達を追って行くとある小さな小屋に連れ込まれていた。
――ツンツン!
「おい、コボルトやめろよ!」
――ツンツン!
「だからなんなんだよ!」
俺は手を払い除けるとコボルトにはないゴツゴツとした手の感触を感じた。
あいつならきっとふさふさ……いや、今は毛が無くなっていたか。
俺は撫でるように手の感触を探る。
それにしてもいくら毛が無くなったからって、人に近い手の感触をしていたとは知らなかった。
「ゴフッ!?」
「ん? ゴブッて変わった鳴き声で……」
ゆっくりと振り返るとそこにはゴブリンがいた。
目の前ばかりを気にしていたため、ゴブリンが近づいていることを知らなかった。
それよりもあいつは付いてこずに何をしているんだ。
「うおおぉぉぉ!?」
「ゴフフッッ!?」
付与術師の俺がこんな低レベルの魔物に見つかるとは思いもしなかった。
急いで戦う準備をするが、なぜかゴブリンからは戦う意志が見えなかった。
「お前いつからいたんだ?」
「ゴフッ! ゴブゴブゴッフ!」
ひょっとしてたら話せるのかと思ったが、やはり魔物の言葉はわからなかった。
コボルトの時も思ったが、何を言っているのか全く理解ができないのだ。
なぜ魔物達は独自の言葉を話すのだろうか。
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「ゴブ……オマエは――」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「オマエハシンニュウシャカ」
コボルトの時は調整するのが難しかったが、今回は二回である程度何を言っているのか理解はできた。
「いや、お前達が連れてきたやつを取り返しにきた」
「ソレヲシンニュウシャトイウンダ!」
「やっぱ片言で聞きにくいな」
ただ、ちゃんと言葉を話すだけでは聞き取りにくいのは変わらない。
「シンニュウシャハボスニホウコク」
ゴブリンは奥にある大きな小屋に走って行った。
きっとこの群れの上位種があの先にいるのだろう。
早く彼女達を回収しないと標的は俺になってしまう。
その前にどうにか助け出したい。
決してやましい気持ちがあるわけではない。
「とりあえずあいつらを助けてやるか」
そのまま身を隠しながら彼女達がいる小屋を覗くとそこは異様な光景が広がっていた。
中には彼女達も含めて数人の女性達がいる。
ただ、女性達はぐったりとしておりどこか様子がおかしい。
その中で二人は意識もなくお腹が大きく膨れている。
「ここで子どもを作っていたってことか……」
ゴブリンは群れに雌がいないと他種族を媒介に子どもを作る習性がある。
きっとあの二人は雌のゴブリンが産まれるまで孕み袋として使われていたのだろう。
ゴブリンが女性を捕まえるのはそれしかない。
だが、雌がいるこの状況でなぜ彼女達は捕まったのだろうか。
「とりあえずあいつらを助けるか」
小屋の中にゴブリンがいないか確認し、小屋の扉をゆっくり開ける。
中は異臭が広がり鼻の奥が刺激される。
咄嗟に息を止めて鼻を押さえた。
「誰なの!」
「ソフィアどうしたの?」
「いや、今誰かいた気がして……扉もさっきより開いているのよ!」
「まさかゴブリン以外に……」
「でもそれはないわよ。こんな森の奥深くにゴブリンの集落があるなんて誰も知らないわ」
「そうよね」
確かにこんな森の奥までは普段なら依頼がない限りは来ないはずだ。
バレたのかと思いビクッとするが、どうやらまだ見つかっていないようだ。
彼女達はすでに諦めているのか、俺の気配も感じ取れないのだろう。
ゆっくりと小屋の中に入ると、静かに彼女達に近づいた。
手と足には縄で縛られており動けないようになっている。
逃げなかったのは単純に逃げられないように身動きを封じられていたからだ。
ははは、いい気味だ。
あいつらの不幸に嬉しくなるとともに、簡単に捕まったことが許せなかった。
俺以外のやつに嫌がらせをされるなんて……。
「エンチャント"性質変化"鋭化」
俺は持っていた木の枝に付与魔法をかけて性質変化させた。
元が木の枝のためそこまで鋭くはできないが、性質変化をすると縄を切ることができる。
そのまま木の枝を何度も突き刺すと縄を切ることができた。
「ねぇ、ルーダの縄切れてないかしら?」
「えっ、本当だ! 今すぐ助けるぞ!」
幸いゴブリンの知能が低かったからか彼女達の武器はそのまま腰につけていた。
ルーダは自身の剣を鞘から取り出し他の仲間達の縄を切り落とす。
これで彼女達はもう大丈夫だろう。
俺はそのまま小屋を出て、さっき話していたゴブリンが向かった方へ歩き出した。
「でもなんでルーダの縄が切れていたのよ」
「それはあたいにも……でもこの匂いって……」
「えっ!? なんでなの!?」
「この匂いってクロウよね?」
「ええ、私も感じたわ。でもこんなところにクロウがいるはずないわよね?」
「普通はそうだけどクロウがいる可能性は……」
「私達を心配して見守ってくれてることね!」
なぜかその後小屋からは楽しそうな話し声が響いていた。
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