第15話 ゴブリンごっこ ※コボルト?視点

 我はなぜこんなに命懸けで走っているのだろう。


 死に物狂いで走って息を吸うのも精一杯だ。


 そう、あれはあの悪魔が我の屋敷に来てから始まった。


 我は高貴なグレートウルフという狼型の魔物だ。


 小さい頃はただのウルフとして人間に可愛がってもらっていたが、誇り高きグレートウルフに進化してからは我のプライドがそれを許さなかった。


 気づけば屋敷の檻の中で生活していた。


 人間が来たら少し驚かせばみんな腰を抜かすか、おしっこを漏らして逃げる姿が面白かった。


 我は今回も同じように驚かした。


 だが、それが悲劇の始まりだ。


 少し軽く噛んでやろうと思った我はあやつに向かって大きく口を開けた。


 あんな小さなやつなら甘噛みで怖気付くと思った。


 まさか我の大事な犬歯がやられるとはな……。


 その後も我を忌々しい首輪にくくりつけて振り回しては微笑むその姿が悪魔族に見えた。


 我のプライドもコボルトと言われズタズタだ。


 だから我はやつを許さなさい。


 散歩の最中に噛み殺してやるつもりだった。


「クオォォォーン!」


「なぁーに泣いているのかな? 拙者に教えてくれてもいいではないか」


 だがそんなことを言っている暇は今はなかった。


 ゴブリンごっこという訳のわからんことに付き合わされているのだ。


 悪魔に連れて来られた森にまさか我らの種族の最上位であるフェンリルがいた。


 だが、このフェンリルは変わり者なのか二足歩行で走ってくるのだ。


「おい、コボルト(白)! そっちに逃げたぞ!」


「イエッサアアアア!」


 我はその場で体を切り替えて木の上を颯爽と逃げる。


 これでもグレートウルフだから木に登るなんて朝飯前だ。


「なぁ!? あいつあんな上に登ったぞ!」


「拙者木は登れないです」


「はぁん!? 同じコボルトじゃんか」


「面目ない」


 どうやらやつらは木の上までは登って来れないようだ。


 あのフェンリルも軽やかに登ってこれるはずだが、二足歩行のためか下でカリカリとしている。


 あいつが我より上位種とは認めたくない。


 それにしてもあの悪魔の行動には驚いた。


 木を抜いたと思ったら、大きく振り回して薙ぎ倒したりと本当に桁外れの動きをする。


 全力で走っているのに奴らはニヤニヤした顔で向かってくるのだ。


 正直言って二人とも気持ち悪い。


 やっと休憩できる場所を見つけた我はここで体を休めることにした。


 走りすぎて心臓の高鳴りが治らない。


「みぃーつけた」


 休め……ないだと。


「クォ!?」


 声がする方を見たら悪魔がコチラを見てニヤリと笑っていた。


 その足元には木に直角に刺さった木の枝があった。


 木の枝が木の幹に直角に刺さるってどういうことだ。


 しかもその上に人間が乗っているのだ。


 普通は折れるだろ!


 我は勢いで木から飛び降りる。


「おい、またそっちに行ったぞ!」


「拙者の出番!」


 気づいた頃には我はフェンリルの胸の中にいた。


 ああ、なんて良い毛並みなんだ……。


 あまりにも心地良いもふもふさに逃げる気力もなくなった。


 我はそのままフェンリルに体を預ける。


「なんだ……? 拙者の胸は胸毛がボーボーだぞ」


「なんかその言い方は気持ち悪いな」


 どうやら良い毛並みだと思っていたところは胸毛らしい。


 ははは、本当にこやつらはめちゃくちゃだ。


 ただ、今まで遊んできた中で一番楽しかった。


 小さい時に味わったあの幼少期の感覚と同じだ。


 楽しかった記憶を再びこやつらが蘇らせてくれた。


「ボスも拙者の胸にどうだ?」


「いや、遠慮しておく」


「ボオオォォスウウゥゥゥ……」


 それにしても本当に賑やかなやつらだ。

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