第13話 散歩?
俺は首輪を片手にコボルトに近づく。
剥き出しになった長く尖った歯は、今にも俺を噛みつこうと光っている。
森で待っているコボルトとは全く違うその姿に、俺は仲間にするやつを間違えたのだろうか。
あいつもこれぐらい迫力があれば嫌がらせ作戦に使いやすかったはずだ。
「グルルル!」
唸り上げる声に俺は体が震えてしまう。
「コボルト――」
「グアァァー!」
どこかコボルトからは苛立ちを感じていた。
あまりにも我慢できなかったコボルトは大きな口を開けて飛び込む。
きっと運動不足でイライラしているのだろう。
「グァ!?」
コボルトは俺の頭を噛もうと何度も歯を鳴らして噛んでいる。
だが俺を噛めないことに驚いているのだろう。
チラッと俺の顔を見ては再びガシガシと噛み付く。
「ああ、今性質変化を付与しているから俺を噛んでも意味ないぞ? ほら?」
俺は檻の中に入る前に付与術"性質変化"を使って、硬度を増している。
だから何度も噛みつこうとしても、歯を傷めるだけだろう。
それでも必死に噛もうとしているコボルトに、俺は腕を前に差し出すと思いっきり噛みついた。
「グァ!? ガァ!? ガアアアアア!」
むしろガチガチと噛みすぎて自身の歯を痛めたようだ。
ほら思った通りになっただろう。
コボルトは諦めたのか尻尾を巻いて檻の奥に逃げてしまった。
「さぁ、散歩に行くんだろ?」
「グァ!?」
コボルトは首を大きく横に振っていた。
そんなに首を振るほど散歩に行きたかったのだろう。
大きく振りすぎて垂れ下がった舌が追いついてない。
俺はコボルトに近づきそっと首輪をつけた。
「これでとりあえずは大丈夫なのか?」
コボルトを撫でるとなぜかビクビクとしている。
おお、そんなに嬉しいのか。
森で寝ているコボルトも嬉しい時に震えているからな。
「よし、散歩に行こうか」
俺はそのままリードを引っ張るが、何か重い物を運んでいるようだ。
振り返ると爪を立てて頑なにコボルトは動こうとしなかった。
こんな見た目で自分で動きたくないのだろう。
流石に元の力だけじゃ動く気がしないため、自身に付与魔法をかけた。
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
「エンチャント"力強化"」
コボルトの大きさ的に重いと判断した俺は付与術をたくさん重ね掛けしたのだ。
「ほら、散歩に行く――」
これぐらい付与すればいいだろう。
俺はそう思ってコボルトのリードを引っ張って抱きかかえようとする。
だが俺の予想を遥かに超えていた。
なんとコボルトは軽かったのだ。
――ドォーン!
真っ黒の物体が宙に浮いて檻の鉄格子に衝突していた。
どうやらコボルトを軽く引くつもりが大きく引っ張りすぎて飛んでしまったようだ。
すぐにコボルトに駆け寄ると、どこかで見たような姿勢をしている。
二つ折りになるぐらいの勢いで頭を下げていたのだ。
尻尾は自身の股に挟み込み、目をうるうるさせてこちらを見ている。
ああ、森で待っているコボルトが嬉しかった時の反応だ。
「そんなに散歩に行きたかったのか!」
「グァ!?」
コボルトは驚きの表情をしていた。
"やっと気持ちが通じた"って言わんばかりの顔だろう。
「よし、散歩に行くぞー!」
執事に鍵を開けてもらい、そのまま散歩に向かうことにした。
付与術の影響で散歩をするにも引きやすいからちょうど良い。
「では行ってきます!」
俺は執事に声をかけると森に向かった。
なぜか俺の顔とコボルトを交互に見ていたのは、何かあったのだろうか。
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