第12話 街の依頼

 俺は依頼書を持って、ある屋敷の前で立っていた。


「ほぉー、デカイ家だな」


 屋敷の呼び鈴を鳴らすと、すぐに執事服を着た年老いた男が出てきた。


「どうされましたか?」


「ギルドの依頼にき――」


「ほんとですか!? 助かります!」


 なぜか依頼を受けただけですごく感謝された。


 そんなに今まで誰も依頼を受けていなかったのだろうか。


「今まで数々の冒険者が依頼を受けたんですが、皆さんすぐにやめてしまって……。私もこのように歳を取ってから体が限界に……ああ、こんなところで話し込んでしまってすみません」


 依頼自体を受ける人がいても、達成できずに辞めてしまうのだろう。


 中々厄介な依頼を受けてしまったようだ。


「それで依頼は?」


「ああ、こちらです」


 執事に案内されると、厳重に管理されている扉があった。


「今鍵を開けますね」


 鍵を差し込み魔法を唱えると扉から大きな音が聞こえてきた。


――ガチャ!


「これは?」


「これは施錠魔法です。特別な鍵と魔法を使用しないと開かない仕組みになっているんです」


 どうやら普通に鍵を閉めるだけではなく、施錠魔法を使うほど厳重に管理しているらしい。


 そんなに大変な依頼なんだろうか。


 俺は再び気を引き締めた。


「こちらです。驚いてしまうので大きな声を上げないようにだけお願いします」


 執事の後ろについて行くと大きな檻が目に入る。


「冒険者様こちらです」


 この檻の中に俺が今回受ける依頼のやつがいるのだろうか。


 目を細めて見ると檻の奥に見知った顔のやつがいた。


 俺と目が合うなり大きく唸り、噛みつく勢いで檻を食いちぎろうとしている。


「ガルルルル!」


「コボルトか?」


 俺の目の前には真っ黒なコボルトがいた。


 森に置いてきた真っ白なあいつよりは少し体は小さめだ。


「……」


 執事は俺の問いかけに黙っていた。


 確かに威嚇する魔物を目の前に正常でいられる人一般人は少ないだろう。


「それで依頼って確かこいつの散歩だったよな?」


 俺が受けた依頼これだ。


―――――――――――――――――――――


【愛犬の散歩】


場所 北側にある屋敷

内容 屋敷に住む愛犬の運動解消のために散歩をしてほしい。

報酬 金貨一枚


―――――――――――――――――――――


「冒険者様は本当にこの依頼を受けるんですか?」


「ん? なんか問題があるのか?」


「いえ…….ですが命の保証は――」


「コボルトぐらい大丈夫だろう」


「……」


 今頃森で爆睡しているコボルトよりも二回り程度小さくてただ色が黒くなっただけで特にあいつと変わりはない。


 依頼を出しておきながら執事は俺の心配をしていた。


「わかりました。では鍵を開けますので自身で首輪をつけてもらってもよろしいですか?」


 俺は大きめの首輪を渡された。


 真っ赤な首輪はどこか傷だらけだ。


「この首輪あいつにつけたら似合いそうだな……」


「首輪ですか?」


「いやー、俺も色が白いコボルト飼ってるんで首輪を付けたら似合うだろうなーって」


「では依頼終了後に首輪も用意しておきますね」


「おお、それは助かります」


 なんと依頼を終えた後に首輪を貰えることになった。


 それだけでこの依頼を受けてよかったと思うほどだ。


 今頃森ですやすやと眠っているコボルトに似合いそうな色だしな。


「では健闘を祈ります」


 執事は扉を開けると呪文を唱える。


 気づいた頃には俺は檻の中にいた。


 執事に押し込まれたのだ。


「えっ?」


 俺は振り返るとそこにはニヤリと笑った執事が立っていた。

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