第10話 人間は怖い

 俺はコボルトにある人達に嫌がらせをして欲しいことを伝えると大きく頭を振っていた。


「ボスの命令は絶対……ボスの命令は絶対……」


「コボルト?」


「ハイ! イエッサアアアァァァ!」


 若干聞いているのかわからないが本人が返事をしているのなら大丈夫だろう。


 なぜか俺と目を合わせるとビクビクしているのは気になるが……。


「じゃあ、ちょっといつ来るかわから――」


「ねぇ、ほんとにこの辺にコボルトがいるの?」


「ああ確かこの辺だぞ?」


 ちょうど良いタイミングで新人冒険者のパーティーが森の中を歩いていた。


「試しにあのパーティーに嫌がらせをしてもらってもいいか――」


「ハイ! イエッサアアアァァァ!」


 どこか目の前にいるコボルトに頼むのを間違えだった気がしている。


 ちゃんと話を聞いているのかもわからないし、俺の中の何かが気をつけろと言っている。


「ボス! 行ってきます!」


 コボルトは駆け足で冒険者に向かって走って行った。



「あの体格だと四足より二足の方が走りやすいのか?」


 元々コボルトは二足歩行で移動するが、大きな体格であれば四足歩行の早い気がする。


 どこかレベルアップしたコボルトは人間味溢れていた。






 俺は木に隠れながらコボルトの様子を伺っていた。


 本当に嫌がらせができるかどうか、わからないため確認が必要だった。


 いわゆる試験・・のようなものだ。


「どこにコボルトなんて――」


「グオォォー! 拙者コボルトだ!」


 コボルトは勢いよく回転しながら冒険者達の前に登場した。


 しっかりとポーズも決まっておりそこは合格点だ。


 いかにも強そうな雰囲気が醸し出されている。


「おい、こいつなんなんだ」


「拙者コボルトだ!」


「何こいつ……コボルトってそもそもそんな知能ないわよね?」


「ああ、そうだな」


 冒険者達はいきなり現れたコボルトに困惑しているようだ。


 よし、その調子だ!


「拙者コボルトだ!」


「……」


「ねぇ、依頼の達成にはコボルトの耳が必要なのよね?」


「拙者……」


 コボルトは大量の汗を流してこちらをチラチラと見ている。


 そんなにこっちを見たら俺の存在がバレるではないか!


 手を必死に振って冒険者の方へ視線を向けるように指示をする。


「ああ、だから早くこいつを倒そうぜ」


 気づいた頃にはコボルトは冒険者に囲まれていた。


「へへへ、良い子にしてたら少し痛い思いをするぐらいだぜ。 なぁ?」


「そうよ! しかもこんな大きなコボルトだと取れる魔石も売ったら高そうね」


「この毛も素材にしたら良い防具が作れるんじゃないか?」


「ははは、それはいい考えだな」


 冒険者三人に囲まれたコボルトは身動きが取れなさそうだ。


 その場で座り込み脚を抱え込んで小さく丸まっている。


 時折人間に見えるのはなんでだろうか。

 

「人間怖い……人間怖い……」


 女は武器を取り出してコボルトに刃を向けた。


「可愛い子ね。人間に怯えてこれなら簡単に――」


「おい、お前の剣を真っ二つになってるぞ?」


「そんな……なにこれ!?」


「襲撃だ! 辺りを警戒しろ!」


 流石に可哀相に思った俺は近くにあった石を女が持つ剣に当てると勢いよく折れた。


 ちゃんと武器の管理をしないから簡単に折れるんだぞ。


 まず依頼を受ける前に冒険者として武器の管理ができるようになってから討伐依頼を受けるようにしなさいとアドバイスを送りたい。


「おい、早くコボルトを――」


 違う男がコボルトに剣で切りつけようとしていたため、思わず石を投げた。


 今度は腹部に命中し、その衝撃で男はそのまま崩れるように倒れた。


「うげ!?」


「モンブー!?」


「チクショー! このままじゃ全滅するぞ!」


「嫌だ! 私は依頼なんてどうでもいいのよ! そもそもこんな大きな厄病コボルトなんて知らないわよ」


「わかった。今はモンブの命が優先だ!」


 泣き叫ぶ女を立たせると、男は倒れた男を抱える。


 そのまま向きを変えて女とともに街に帰って行った。


「おい、コボルト大丈夫か?」


「人間怖い……人間怖い……」


「おーい!?」


「ふぇ!? ボス?」


 コボルトは何かを呟きながら震えている。


 怯えていたコボルトの耳元で何度も話しかけると、やっと俺の顔を見た。


「人間は?」


「ああ、なんか帰って行ったぞ」


「えっ? ボスが追い払ったのか?」


「んー、そうなるのか?」


 コボルトの顔は自然と明るくなりキラキラした瞳で俺を見ていた。


 まさかこれはひょっとして……。


「ボス! 拙者一生付いてきます!」


「いや――」


「何を言われようとも拙者が付いていきます!」


 あまりの執拗さに俺は諦めることにした。


 どうやら俺はコボルトをペットとして手に入れたようだ。


「もうわかったわ……」


 こんなコボルトは嫌がらせ試験には不合格だ!



──────────

【あとがき】


下にある♡応援や☆評価をお願いします。

ランキング上位目指して頑張りますᕦ(ò_óˇ)ᕤ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る