第9話 コボルトと遊びます

 目の前にいるコボルトは泣いている。


 俺はそんなに悪いことをしたのだろうか。


「人間こえーよ……。話しても聞いてくれないし、そんなに拙者強くなくてもいいのに……」


「……」


 俺としてはレベル調整を付与し過ぎて何かわからない存在になった目の前のコボルトの方が怖い。


 職業フェンリルってなんだよ。


 冒険者人生で一度も聞いたことない。


 明らかに俺よりも目の前にいるコボルトの方が危ない存在だろう。


「それで俺に協力してくれるのか?」


 それでも俺はコボルトに協力してくれるか確認するとこちらを見ていた。


「拙者には無理――」


 無理なら仕方ないと木の枝を持って次のコボルトを探すことにした。


 すると急にコボルトは姿勢を正し敬礼した。


「イエッサアアアアアー! ボス!」


 どうやらコボルトは俺に協力してくれるらしい。


 曲がっていた背中を伸ばしたコボルトは思ったよりも大きかった。


 ただ、俺の手に持った木の枝をチラチラと見ているのはなんでだろうか。


「これが欲しいのか?」


 元々犬に近い魔物だからおもちゃみたいな物が好きなのかもしれない。


 頷いたため俺は木の枝を投げることにした。


「ほら、取ってこーい!」


 走って遊べるようになるべく遠くへ投げた。

 

 それをコボルトは必死に木の枝を追いかける。


 いや、あれは逃げているような気がする。


 そう思った時には、投げた木の枝は木の幹へ直角に刺さっていた。


「……」


「おー、結構すごいな」


 木の枝は思ったよりも耐久性が増加しているようだ。


 コボルトはチラッとこちらを見て笑った。


「拙者が逃げるはずないじゃないですか!」


「逃げる?」


 やはりコボルトは逃げようとしていたらしい。


「へへへ、これで武器がなければ拙者――」


「おもちゃならたくさんあるぞ?」


 そんなに遊んで欲しいのならいつでも作ってあげようじゃないか。


 木の枝なんてその辺にたくさん落ちているからな。


「エンチャント"耐久性"増加」


 簡単に折れないように一気に木の枝に耐久性増加を付与する。


「ほら持ってこーい!」


「ヒィ……」


 どうやらコボルトも楽しそうだ。


 いくつか性質変化を付与して、追尾機能も搭載し

ている。


 そのおかげで嬉しそうに変わった踊りをしていた。


「もっと欲しいのか?」


 コボルトは顔を大きく振っていた。


 少し遠くにいるため見にくいが、たぶんもっと欲しいという合図なんだろう。


 俺は手元にある木の枝を再び投げる。


「いくぞー!」


 木の枝を拾っては投げるを繰り返すとコボルトは嬉しそうに鳴いていた。


 気づいた時には手元に枝がなくなっていた。


 おもちゃが無くなったことをコボルトに伝えるために近づくと何かを呟いている。


「人間は悪魔……人間は悪魔……人間は悪――」


「大丈夫か?」


「ヒイィィ!?」


 コボルトはどうやら何かに怯えているようだった。


「もう遊ばなくて大丈夫なんか?」


「一生ボスに付いていきます! だから命だけは勘弁してください」


 俺の言葉にコボルトは大きく頭を下げていた。


 もはや頭ではなく体をコンパクトに二つ折りにする勢いだ。


「いや、一生は付いてこなくて大丈夫だよ」


「ふぇ!?」


「俺はある奴らに嫌がらせをしたいから君に声をかけただけだし」


「あれは声をかけた範疇なのか……」


 コボルトは遠い空を見つめている。


 その顔は長年働いた冒険者のおじさんよりも疲れた表情をしていた。

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