第3話 初めてのストーカー行為
気づいたら朝になっていた。それまで俺はあいつらにどうやって仕返しをするかを考えていた。
「何かいい案はないのか……」
いざ仕返しすることを考えると特に何も思い浮かばない。
すると同じ宿屋に泊まっている彼女達の声が聞こえてくる。
そういえば、昨日まで同じパーティーに所属していため宿屋も同じところに泊まっていたのを忘れていた。
「装備を買い直さないといけないわね」
「少ないお金でやりくりしましょ」
依頼のお金はなぜか俺が半分もらっていたから、彼女達はあまりお金を持っていないのだろう。
貢献度によって報酬を分けていたからだ。
大体付与術師なんて貢献していないって言われて報酬をもらえないことが多いのに、彼女達は俺にちゃんと報酬を与えてくれた。
「はぁー、どうしたら仕返し――」
部屋の片隅に置いてある装備が目に入った。
「あー、装備に付与すればいいのか!」
俺の付与術なら簡単に仕返しができるかもしれない。
閃いた俺はすぐに宿屋から出て彼女達を追いかけることにした。
これが俺の初めてのストーカー行為だ。
♢
俺は彼女達が武器屋に向かうところに合わせて部屋を出てこっそりと後をつけた。
付与術師は基本的に敵に見つかってはいけないと言われている。
戦闘では付与してあとは逃げているだけだからな。
そのため隠れながら人を追いかけるなんて朝飯前だ。
むしろ俺の性格だと付与術師は天職だと思う。
「おっ、あいつらいつもの店に入って行ったか」
彼女達が入ったのは御用達の武器屋だ。
俺は彼女達の装備の耐久度を低下させて仕返しすることに決めたのだ。
ただあそこの店はそれなりに値段が高い武器が揃っていたはずだ……。
外で中の様子を伺っていると彼女達は武器屋の店主と話をしていた。
しばらく待機していると武器屋から出てきた。
「やっぱりどの武器も高いわね」
「ソフィアと私は魔法が主だからどうにかなるけど、ルーダはしっかりとした武器が必要だわ」
「いやいや、あたいは素手で――」
「それは無理よ!」
「だからあの武器にしたのよ? 最悪私とモナが魔法で魔物を倒すわ」
「すまない」
「いいのよ! 私達は同士なんですから」
彼女達が何を言っているのか分からないが、三人はどこか楽しそうだ。
俺を自分勝手にパーティーから追放したのに……。
その姿に俺の中の復讐心が強くなる。
彼女達が店の前からいなくなった瞬間にすぐに店の中に入った。
――カラン!
「おお、クロウじゃないか」
「お久しぶりです」
店に入ると店主は声をかけてきた。
俺も彼女達に買った武器は基本ここで買っている。
お互いに顔見知りで店主は男だから気にせず話せる仲だ。
「さっきパーティーのやつらが武器を買いに来たんだがあんな装備を買ってどうするんだ?」
「どれを買ったんだ?」
「この三つだが外れ武器だぞ?」
「あー、これはやばいな」
鑑定ができる魔道具を着けると、どの武器も同じような説明だ。
――――――――――――――――――――
《謎の剣》
レア度 ★
説明 ダンジョンで稀に発掘される謎の剣。耐久度が低くすぐに刃こぼれや折れてしまう。抜剣するときは勢いよく抜かないように注意。
――――――――――――――――――――
流石に仕返しをするどころか剣を抜いた瞬間に壊れてしまうだろう。
「まぁ、武器屋の店主としては買ってもらった方が良いけどな」
「俺にもあいつらが何を考えているか分からんぞ」
このままじゃ仕返しをする前に魔物に殺されるだろう。
「少し武器を借りてもいいか?」
「ああ、いいぞ」
「エンチャント"耐久性"増加」
俺は武器を手に取ると付与術を発動させた。
付与術の中でも簡単な"耐久性増加"を武器に付与した。
これで魔物と戦っている時に剣がポキッと折れれば間接的に仕返しができるはずだ。
戦いで逃げ出すことになれば屈辱的な気持ちになるだろう。
そうすれば俺のありがたみが少しはわかるはずだ。
「くくく、これは楽しみだぜ」
「おい、気持ち悪い笑みを浮かべて変なことはしていないだろうな?」
「ああ、大丈夫だ。あいつらには俺が来たことを言わないでくれよ」
「わかった。ただその気持ち悪い顔を戻してから店を出ろよ? そんな顔して店から出て行ったら客が帰っちまう」
「おお、そうか。また来るよ」
彼女達が魔物討伐に行った時のことを考えると笑いが止まらない。
そのまま店から出ると店に入ろうとした客達が帰って行った。
ひょっとしたら武器屋の店主は予知魔法も使えるのだろうか。
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