第2話 好きすぎて ※ソフィア視点

 私は今日パーティーのメンバーとともに苦渋の決断をした。


 それは同じパーティーで唯一の男性であるクロウをパーティーから追放することだ。


「ソフィア大丈夫?」


「大丈夫なわけないでしょ!」


「そうよね……」


「私も言いたくないのにリーダーだからって任せて悪いわね」


「あたいも緊張して……すまない」


「本当に仕方ないことなのよ」


 私達は元々女性三人だけのパーティーだった。


 魔法使いの私、神官シスターのモナ、女剣士のルーダとパーティーの役割分担としては特に問題はなかった。


 ただ問題なのは男達の気持ち悪い視線が集まることだった。


 私達は自分で言うのもあれだが容姿が整っている。


 私はエルフだから珍しい存在という理由で視線を集めるのは仕方ない。


 しかし、他のメンバーの容姿が整っている。


 モナは貴族出身で冒険者の中では珍しいお淑やかな雰囲気を醸し出している。


 誰に話しかけられてもにこりと笑うことで、男達は虜になる。


 当の本人はそんなつもりはないらしい。


 一方ルーダはアマゾネスと言われる人種で褐色肌で魅力的な体が私も羨ましいと思うほどだ。


 いつも露出が多く、大きな胸と細い腹部が男達の股間を主張させている。


 これまた当の本人はただ暑いからという理由で薄着らしい。


 アマゾネスは基本的に下着程度の布しか着けないため、今は厚着らしい。


 だからパーティーに一人でも男性がいれば変わると思って声をかけたのがクロウだ。


 冒険者なのに私達に興味も示さないし、とにかく紳士的なのが彼の魅力だ。


 初めて声をかけた時は無視されたし、その後も返事ぐらいしかしない。


 今まで会った男とは違っていた。


 他の男なら自分から声をかけてくるか、私達の体に触れてこようとするやつらばかりだ。


 その姿に私達は全員やられてしまった。


 しかも彼は中身だけでなく冒険者としても優秀だった。


 その腕前は普通の付与術師と比べてはいけないほどだ。


 普通であれば中級の魔物であれば何発も放たないと倒せない魔物が、彼が付与するだけで私の魔法一撃で死ぬほど能力を強化することができる。


 そもそも魔法強化ができる付与術師は少ない。


 そんなクロウだからこそ私達は話し合ったのだ。


 このまま彼に頼っていたら、きっと彼に見合った女性になれないと……。


 だから私達はクロウをパーティーから追放することにしたのだ。





 いつもと変わらない何気ない雰囲気に戸惑いながらも私は彼に伝えることにした。


「クロウいいかしら?」


「ん?」


 私はクロウの瞳を見ると、今日も引き込まれそうな瞳に私の心を鷲掴みにされた。


 でもこのままではいけない……。


 私達は強くならないといけないのだ。


 震える手を強く握りしめた。


「あなたにはこのパーティーから抜けてもらうわ」


「えっ……」


「前々から思っていたけど、正直あなたにはこのパーティーは合わないのよ」


 そう、私達より魅力的で強い彼はこのパーティーに合わないのだ。


 どこか驚いてる彼もいつもの紳士さが無くなってそれもまた素敵だった。


「だから早くパーティーから抜けてちょうだい」


「わかった」


 それでもやはり彼は変わらなかった。


 こんな時でも返事一つだけなのだ。


 どこか悔しいと思い、私達のことを忘れないようにと彼からもらったプレゼントを返すことにしていた。


 本当は大事に持っていたかったけど切り替えないといけない。


「ちょっと待ちなさい」


「なんだ?」


「あなたが買った装備でしょ。私達にはいらないものよ」


「えっ……ん?」


 私はその場で着ていた装備を脱いで彼に渡した。


 仲間のモナとルーダも同じ気持ちだったのだろう。


「こっ……こんな装備つけてたら忘れられないわよ」


 強気なルーダも顔を赤く染めながらも頑張って彼に装備を渡している。


「ああ、そうか」


 彼は装備を受け取ると冒険者ギルドを後にした。


 その後ろ姿を見ると心の中で後悔が押し寄せてくる。


「うっ……」


 私がその場で崩れ落ちると仲間達は私を囲むように抱きついた。


「ソフィアありがとう」


「一番強いあたいが頼りなくてすまない」


「みんなは悪くないわ。ルーダも頑張って装備を返してたわよ」


 いつも恥ずかしがって話せないルーダも珍しくクロウに話しかけたのだ。


「これから私達も強くなるわよ」


「ええ、そうね」


「あたいがあんた達を守るわ」


 私達はより一層クロウを愛するメンバーとして一体感が増した気がした。


 ただ、クロウを追放した場所が間違いだった。


 ここは私達をいやらしい目で見る人達が多い冒険者ギルドの中だった。

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