第27話
背後に堅牢な壁が聳え立つ大門には、すでに多数の戦闘機や対空ミサイルなどの設備が目視できるレベルで配備されていた。
「ハワード将軍……本当に僕らとやりあうつもりなんだ……」
昨夜会話していたとはいえ、実際に目の当たりにすると足が震える。
だってどう見ても話し合いという雰囲気は皆無だからだ。
「これだけの軍備を整えてくるなんて。いくら昨晩スコット君が宣戦布告をしたとはいえ、一晩で手配できる規模じゃないわね。私達が要求を飲まないことなんて、とっくの昔に想定済みってわけ?」
「へぇーっ!
「というより、元より無理にでも奪うつもりだったのだろう」
「こちらも、大人しく奪われるつもりなど毛頭ありませんが」
いたって冷静に、しかし確実に闘志が燃えている魔剣たちを脇目に、白衣姿の幼女がスコットの裾を引いた。
「見送りはここまでだ。悪いけど、あとのことは頼んだよ」
「はい、アゾットさん。必ず、あの口先ばかりの聖剣の国――愚かな祖国と将軍の目を、覚まさせてやります」
己を奮い立たせるように宣言したスコットに、アゾットは『頼もしいねぇ』と、やんわり微笑む。
「ねぇ、スコット。人の『願い』はね、私たち魔剣に底知れない力を与えるんだ。キミは最初、魔剣を『ありえない』『まるでファンタジーだ』と言ったねぇ? でもそれは、私達だってそう思っているんだよ。なぜ人間の『願い』にここまでの力があるのか……私達にもわからない。しかし、事実としてそれらの得体の知れない力が魔剣に活力を与える。それはときに自然の摂理、科学的事象、質量保存の法則を無視するほどにね」
そういって、アゾットは手にした短剣を防壁に突き立てる。その短剣は不思議な光を発しながら周囲の鉱物を浸食し、幾重にも聳え立つ鋼鉄の壁をダイヤモンドの壁へと変質させた。これがアゾットの持つ力、『錬金の秘術』だ。
「私は、ラスティと契約する前はパラケルススという軍医と契約していたんだけどねぇ。何の因果か彼は『賢者の石の私的利用と独占』を理由に捕まってしまった。ラスティは、押収されようとしていた私を保護してくれたんだよ。私の柄には賢者の石の欠片が入っているから。それが今では――ふふっ、どうして私の主はいつもいつも、犯罪者になってしまうんだろうね?」
結局、ラスティが罪人となったことで契約関係を解消することになってしまったアゾット。それが彼女のためだから、という理由に納得はしているが、代わりの契約者なんてそうそう見つかるものでもない。
『困ったなぁ』と笑う彼女はどこか寂しげで。でも、思い出に浸るその表情は、優しい感情に満ちていた。
「私は『錬金の魔剣 アゾット』。思うように自在に物質を変質、錬成させることができる。だけど見ての通り、私の身体はこのように小さな短剣なんだ。戦う力は無い。だから、お願い……どうか、キミの力でこの国を守ってくれないかい? そうしていつか、世界を変えてくれ。パラケルススが変えようとして、できなかった、この世界を――」
「アゾットさん……」
「大丈夫、キミとアロンダイトならきっとできるさ。だって、契約者を得た彼女に守れないものなんて――どこにもないもの」
にこりと背伸びして肩を叩いた宝剣は、『素敵な契約者が見つかってよかったねぇ?』と呟いて、満足そうにその場を去っていったのだった。
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